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勇者カケル 〜魔王討伐にかけた夏 第四回:いざ冒険へ

 突然のはるかの大声にびっくりしてみんな彼女を見た。はるかは生き返った男と彼を生き返らせたせきぐちをずっと睨みつけていた。何が何だかわからないせきぐちは彼女に言った。 

「どういうことなんだい?君はさっき死んだこの人を抱いて泣いていたじゃないか。僕は君のためを思って十年分の命を犠牲と引き換えにザオラルをかけてこの人を生き返らせたんだぞ。それなのに!」

「そんなこと私には関係ないじゃない!」

 とはるかは叫んだが、その瞬間自分が放った言葉があまりに酷いことに気づいた彼女は言葉をつまらせてその場で泣き伏してしまった。カケルは泣き伏しているはるかが可愛そうでならなかった。それではるかのもとに行って彼女の肩を抱いてこう言った。

「せきぐちだって君のためを思って寿命を犠牲にしてこの死体を蘇らせたんだ。君が死体が生きているのが嫌だったらせきぐちに頼んでザキで殺して死体に戻してもらってもいい。そうしたらせきぐちの寿命だってもとに戻るしさ」

 こう言われたはるかも含めて一同ナチュラルに恐ろしいことを言うカケルにゾッとしたが、しかし冷静に考えてこんなことを平気で言えるのが勇者なのだと逆に感心し直した。

「バカヤロー!せっかく蘇ったのに今度は実の妹に殺されるのかよ!散々人を魔物の盾にしやがって!はるか!言ってみれば俺はお前の命の恩人なんだぞ!その恩人を二度も殺すのかよ!」

「うるさいわね!お兄ちゃん、あなたが生きているときみんなどれだけ迷惑していたかわかってるの?いつまでも働かないでニート暮らしで魔王がせめて来たときだって逃げようとしたじゃない!だから私がせめてあんたがみんなの役に立つように人間盾としてあなたを壁にくくりつけたんじゃない!せめて最後の最後で私を守ってくれて涙涙のお別れができたのになんで蘇って来たのよ!ああ!やっぱりもう一度殺してよ!せきぐちくんザキ使って殺してよ!」

 バカ!という怒号とともに誰かがはるかの頬を引っ叩いた。何すんのよ!とはるかが振り向くとそこに涙を流したカケルの姿があった。

「君は蘇った家族にそんなことをしていいのか?おいせきぐち!君もザキを唱えるのはやめるんだ!」

「まだ唱えてないんですけど……」

「うるさいお前は黙ってろ!で、はるかさん。もう一度考えるんだ。ここにいるのは奇跡的に蘇ったたった一人の家族なんだ」

「俺がザオラルで蘇らせたんですけど……」

「お前はどうして僕の話にしゃしゃりでてくるんだ!お前には関係ないんだから黙ってろ!で、はるかさん。君はそのたった一人の家族をまた失ってもいいのかい。僕は嫌だね。何があっても家族だけは守りたい。だから僕はこうして勇者になったんだ!はるかさん、君だってたった一人のお兄ちゃんが死んだとき悲しかっただろ?君は昨日必死に助けを求めていたじゃないか。みんな助けてって叫んでいたじゃないか。そして今日一回死んだお兄ちゃんの遺体を抱えて泣いていたじゃないか。君はお兄ちゃんを愛しているんだよ。こんな悲劇を繰り返さないように僕は君たちとともに魔王討伐に行くよ!みんないいだろ?」

 勝手に話をすすめるカケルにみんなついていけなかった。しかしはるかはカケルの家族愛の言葉に打たれ自らの心の狭さを反省し涙した。もう昨日カケルが村が魔王に襲われているのを知っていながら逃げ出したことを知ってもどうでもよくなっていた。はるかは彼の魔王討伐の呼びかけに同調して甲子園に行って魔王を倒すわよとみんなに呼びかけたのだ。ああ!彼女はカケルを熱く彼を見つめた。私を甲子園に連れて行ってくれるのはカケル君だけ……やっぱり私。

「そうと決まったら早速冒険を始めようぜ!さっさと甲子園に行って魔王を倒すぞ!」

 カケルとはるかのラブコメモードをぶっ壊すかのように誰かがみんなに向かって大声で言った。はるかの兄である。

「ちょっとお兄ちゃん、あなたも行くの?行っても役にたたないでしょ!」

「約には立つさ。俺は実は遊び人なんだぜ!成長したらパルプンテ使えるんだ」

 はるかは頭を抱えた。彼女は思わずメラで兄を焼いてやろうかと思ったが、ギリギリのところで耐えた。

 カケルはみんなに言った。

「じゃあみんな甲子園までひとっ飛びだ!早く魔王を倒して世界を平和にしようぜ!」

 せきぐちとはるかの兄は並んで歩いていた。しばらくお互い黙っていたが、せきぐちはタイミングを図ってはるかの兄に話しかけた。

「お兄さん、あのですね。……あの爽やか野郎のことなんですけど……。あいつ昨日村が魔王から襲われているのを見ていながら逃げ出したんですよ。あいつさっきそう自分で言ってたじゃないですか。あんなヤツ妹さんに近づけておいていいんですか。勇者とか言ってるけど絶対に嘘ですよ。勇者だったら魔王に襲われている村から逃げないでしょ?」

「いや、そんなこと言ってもはるかのやつがそう思ってるんじゃしょうがないよ。あいつは頑固者だからな。一回こうと決めたらテコでも譲らないんだ、だけどさ。もしかしたらあの爽やか野郎、本当に勇者かもしれないぜ。だってこんな世界であんだけ爽やかでいられるやつがいるかよ」

「俺は絶対にあいつを勇者だって認めませんよ!俺はるかさんがあんな嘘つきに奪われるなんて我慢できない!絶対に!絶対にはるかさんは俺のものなんだ!」

 はるかの兄は困ったもんだとせきぐちを見た。そしてはるかと一緒に前を歩くカケルの眩しすぎる姿にエースの輝きを見た。もしかしたら……もしかしたらアイツが俺たちを甲子園に連れていってくれるかもしれない。

 一方、だいぶ前からトイレにずっと入っていたまつだいらは用を済ませてトイレから出たら今までそこにいたみんながいなくなっているのに驚いた、彼は仲間を見つけようと死体だらけの村を必死で探し回った。もしかして俺をおいていったのか。彼は恐ろしくなって大声で叫んだ。

「俺をおいてゆくなああああああああああああ~っ!」


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