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《連載小説》おじいちゃんはパンクロッカー 第四回:親子ゲンカ
今そのクズの垂蔵が死のうとしている。母を結果的に死に追い込んだ男もまた母と同じようにガンになり死の宣告を受けて死のうとしている。だけど露都はそれを聞いて激しいショックを受けた。自分でも想像できないぐらい激しく落ち込んだ。これは天罰だ、むしろ遅すぎた、母の苦しみを思い知れ。なんて言葉を投げつけてもそれはあくまで口だけだった。露都は垂蔵の病状を知って自分がこんなに憂鬱になるなんて思っても見なかった。さっさと死ねばいなんて本気で思っていたし、それを願ってさえいた。それが現実のものになったのにどうしてこんなにもショックを受けるのか。露都はもしかしたらまだ自分の中にかすかに父親に対する愛情が残っているんじゃないかと勘ぐった。だが彼はすぐに頭を振ってそれを打ち消した。ばかげた話だ。俺があのクズに愛情なんて抱くものか!これは憐れみだよ!死にゆく野良犬を可哀想にって憐れんでいるようなものだ。
書斎は重苦しい沈黙に包まれていた。絵里は露都のあまりにも痛ましい絶叫にそれ以上何も聞くことが出来なかった。露都は机に座って頭を抱えたまま無言で黙っていた。その時突然どこからかとんでもない騒音が鳴りだした。露都も絵里も何事かと思って部屋を見回したが、露都はハッと気づいて声を上げるとすぐさまサトルの部屋に向かって駆けだした。そして部屋のドアを思いっきり開けて中に入った。
部屋には耳をつんざくような爆音が響き渡っていた。その爆音の中サトルはラジカセからがなりたてる叫びと一緒になって叫んでいた。
「デストロイ!デストロイ!デストロイ!」
露都はすぐさまサトルの部屋に飛び込んでラジカセのコンセントを引っこ抜きラジカセを持ち思いっきりサトルを怒鳴りつけた。
「こんなクズみたいなもんかけるな!CDはもう没収だ!」
そのままラジカセを持ち去ろうとした露都だったが、サトルはその彼めがけて奇声を上げながら飛びかかって来た。
「おじいちゃんのくれたフリスビーに何するんだよ!それはお父さんのじゃなくてボクのものなんだぞ!」
「うるさい!こんなもの聴いてたらバカになるっていうのがわからないのか!」
露都はそう叫び自分に掴みかかっていたサトルを振り払った。しかし彼はその時思わず力を入れすぎてしまった。露都に吹っ飛ばされたサトルは頭を思いっきり壁にぶつけてしまった。壁に投げ飛ばされたサトルは泣き叫んでしまった。絵里は頭を抱えた息子を見て真っ青になり二人の間に割って入ってサトルを抱きかかえて露都を怒鳴りつけた。
「いい加減にしなさいよ!子供相手にそんなにムキになって恥ずかしくないの!」
露都は妻の一喝を浴びて自分が情けなくなり、思いっきり舌打ちして、「とにかくコイツは没収するからな!」と吐き捨てるように言うとラジカセを持ってそのまま書斎へと逃げ込んだ。
書斎に入るなり露都は頭を抱えて自分を責めた。ああ!なんて事だ!まさか俺が息子に八つ当たりするなんて!なんて俺はバカなんだ!いつもみたいに軽く叱ってこれはお父さんが没収するからねとか言っていればよかったじゃないか。今日は明らかに頭がおかしい。畜生!これもアイツのせいだ!アイツが末期のガンなんて告白しなきゃこんな事にはならなかったんだ!いや、そもそもアイツがウチに現れなかったら何も起こらず平穏無事な毎日を送れたはずなんだ!
その時ドアをノックする音が聞こえてきた。絵里だった。彼女はノックして入っていいかと尋ねてきた。露都はいいよと呼びかけ、そして絵里が入ってくるとさっきの事を謝った。
「私に謝っても意味ないよ。サトル本人に謝らないとね。あっこれさ」と絵里は入れ物で敗れそうなほど膨らんだPPバッグを自分の前に置いた。
「これおじいちゃんがサトルにプレゼントしてくれたものね。多分全部入ってると思う。サトルの部屋からかき集めて持ってきたんだけど重くて無茶苦茶大変だったよ」
「そりゃそうだ。そんなにもの入ってりゃ」
「多分サトル怒ってあなたと口聞いてくれないと思うよ。だけどそうなっても私知らないからね。これは父親としてのあなたの責任なんだから」
「ああ、わかってるよ」
「とりあえずサトルは今寝室で寝てるからあなたはここで寝てね」
絵里はこう言い終えて書斎から立ち去ろうとしたが、うなだれている夫を見てこのまま去りがたく思って立ち止まった。
「あの、お父さんのことなんだけど。あなた怒るかも知れないけどさ。やっぱり仲直りした方がいいと思うんだよね。勿論あなたとお父さんの事情はよく知ってるよ。それでもしこりをこのまま抱えるのはやっぱり良くないよ」
だが露都は妻の言葉に首を振って答えた。
「そりゃ無理だよ。だってアイツはそれだけのことをしたんだから」