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戦場の歌姫
戦場で死ぬってことは決して栄誉な事じゃない。ただただ惨めなものでしかない。後方の町で、また後の世で兵士の勇敢さが称えられようが、彼に待っているのはロッセリーニの映画よりもあっさりとした死という事故だけだ。
今日もまた一人の兵士がこと切れようとしていた。激痛はすでに遠くへ去った。薄れてゆく意識の中彼はただ天を仰ぐ。もう終わりだ。さよなら俺の人生……よ。
「ジョニー♪行かないで我が恋人よ♪」
ジャジャーン♪
「さあこの手につかまって♪私と一緒に見果てぬ地に行きましょう♪」
パッパアッパアッパッパ~♪
「ジョニー聞いているのぉ~♪ジョニー♪ジョニー♪」
ジャラララララーン♪
「あの、突然やってきてなんですか?」
この兵士の問いに派手な格好をした女はこう答えた。
「ジョニー♪私の名前を忘れたというの♪私はキャンディー、あなたと将来を誓い合ったソプラノ歌手♪遠い昔のあの夜あなたと私は二人で♪あなたは将校に~♪私はメトロポリタンで歌手で歌うって♪約束したのに~♪」
ババーン♪
兵士は女に向かって言った。
「あの俺ジョニーじゃないから。俺生まれてから一度も彼女作ったことないんで多分別の人と間違えているんだと思います」
「あああああああああああああああああああああ~♪」
ドコドコドコドコドコドコドコドコバババババババババババッバーン♪」
キャロラインはそう叫ぶと死にかけの兵士をほっちらかしてオーケストラとともに歌いながらジョニーを探しに行った。
残された兵士は間もなくしてなんだかわけのわからんといった顔をして死んだ。