【物語】 新宿滞在時間、17分
首都圏観光に来たぜ!!
長かった夜行バスを降りて、俺は両手を天高く伸ばした。片道5時間かけて、やっと新宿についた。
空を見上げようと目線をあげた。
しかし、空よりも先に近代的な広告塔が見えた。3D眼鏡もかけていないのに、広告から猫が飛び出してきて驚く。
辺りはざわざわしていて、どこを見渡しても人人人。広告の音に混ざって、信号機が黄色になった瞬間に出す警告音が鳴り響く。
俺は、近未来的な都会の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
田畑しかない田舎で、一生懸命農家のお手伝いアルバイトをして小遣いを貯めた。
今日、この首都圏を観光するためだ。
なんせ、俺は今を煌めく男子高校生。青春真っただ中だ。いきたいところには、全力で行く。
とりあえずスカイツリーを見て、うまいもん食べよう。
そのあと横浜の赤レンガ見て中華街で飯食って。
、、、。食ってばっかりだな。
ノープランの旅。いいじゃないか。
正直、高校に通いながらバイトしている生活は苦しかった。育ち盛りだから腹も減るし。
その苦労も、今日報われる。
さあ、まずはスカイツリーを見に行こう!!
俺の相棒、アイフォーン12を取り出して地図アプリを立ち上げた。
その時、携帯の画面に「低電力モードになりました。」の表示が出た。
え?
もう一度、俺のマブダチ、アイフォーン12を見る。充電マークが黄色になっていた。
その表示。
20%。
え?
これは。
マズイ。
まずいって!!!
ここで親友のアイフォーン12に見放されたら、俺は東京のど真ん中で、天涯孤独になる!!
(家に帰れば祖父母と両親、5人の兄弟がいるので、天涯孤独になりようがないが)右も左もわからない東京でスマホを失う訳にはいかない。
あれだけ憧れて楽しみにしていたキラキラの都会が、唐突に魔物の住む洞窟並みに恐ろしい悪魔の都市に見えてきた。都会に飲み込まれそうな気持になる。
頼もしい俺の兄弟、アイフォーン12は、今にも力尽きようとしている。
死ぬんじゃねえ、兄弟。俺を置いていくな!!
スマホの充電、残り20%。
都会がどうとか言ってる場合じゃない。
全力で帰宅を決めた。