【短歌】クリスマスツリーになった
クリスマスツリーはいつも手作りの白き花待つ冬の雪吊り
【勘違いじゃない物語】
冬の帰り道、僕はワクワクを予感した。
学校から家に帰る途中の道で、大人たちがあちこちの木を飾っている。
観光地である武家屋敷から庭の木々、果ては自宅にある小さな松まで、木という木をロープで縛っているのだ。
クリスマスツリーの準備をしているに違いない。
この村は小さくて、小中学生が合わせて5人しかいない。生徒数が少ないから、普段は山の麓の学校に行く。
子供が少ないから、子供向けの行事はあまりない。
今年の春引っ越してきたばかりの僕は、楽しいイベントの少なさにちょっとがっかりしていた。夏祭りも屋台が少ないし、花火大会もハロウィンもなかった。
それなのに、大人たちはクリスマスだけは気合いを入れて準備しているようだ。
僕は、なんて素敵なんだろうと思って、嬉しくなった。あんまり嬉しいから、クリスマスの準備をしているお兄さんにお礼を言った。
「お兄さん、ありがとう!」
お兄さんは、ちょっと不思議な顔をしたけど、「おう!」っと元気に返事してくれた。
僕は元気に落ち葉を踏み締めながら、周りにいる大人みんなに「ありがとうございます。」をした。
公園の松をロープで縛っているおじさんにも、
自宅の小さな木々を括っているおじいさんにも、
クリスマスツリーの準備中であろう、ロープを持って寒い秋空を歩くお兄さんにも、元気に感謝する。
大人はみんな、頭に「?」をつけていたけど、にこやかに返事をしてくれた。
ああ、クリスマスが楽しみだ!!
きっと、この村中の木がクリスマスツリーになって、ピカピカに光るんだ!
僕の中で、クリスマスがとっても楽しみになった
。
「師匠、あの小学生、誰っすか?」
「去年の春に五十嵐さんの隣に引っ越してきた家族の息子だよ。」
「ああ、3人暮らしの。なんで俺らに礼を言ってたんですか?」
「さぁ、、、」
「お前達も声かけられたのか。」
「あ、健二おじいちゃん。お久しぶりです。」
「オイラも庭の雪吊りしてたら、礼言われてよ。」
「健二もか。俺らも雪吊りしてたら声掛けられたんだよなぁ。」
大人3人が首を傾げていると、若手の作業仲間、羽田がロープを持って来た。
「ロープ持ってきました。何話してんですか?」
「お、羽田。ありがとよ。実は、、、」
師匠がロープを点検しながら、羽田に話しかけた。すると、羽田は顎に手を立てて独り言のように呟いた。
「俺、あの男の子から、『クリスマス、楽しみにしてるね!』って言われたんですよね、、、」
はっ!!!
その冬、村の木という木全てにイルミネーションが設置された。
突然カラフルになった村の夜を見て、観光客が「クリスマスの村」というあだ名を付けたとか付けなかったとか。