【短歌】無垢な羽
彩かなる秋を飾りし雲の羽白を選びし君も飾って
【白無垢も深紅も選ぶ物語】
「え~、白いのも可愛くない~?」
クラシックが流れる静かなカフェに、高い声が響いた。
コーヒーの深い香りを楽しんでいた私は、そっと斜め前を見た。
田んぼの真ん中にあるこのカフェは、大きな窓。
黄金色に輝く瑞穂の向こうに、鮮やかに紅葉する山々と細く薄く伸びる雲が見えた。
その手前。
色とりどりの秋の景色を背にして、カフェのテラス席に2人の若い女性が座っている。
1人は、ロングヘアが美しい黒髪の女性。フリルのついた白いシャツにジーンズと、シンプルだがスタイリッシュな服装だ。
もう1人は、肩のあたりまで伸びるブラウンの髪が愛らしい、薄いピンクのカーディガンにロングスカートを着ている女性。
高い声を出したのは、ブラウンの女性だ。
心地よい秋風を呼び込むように窓が開いている。
その窓から、まだまだ女性の声が止まらない。
「どっちも可愛くて、迷っちゃうんだよね~。」
「あんた茶髪なんだから、少しクリーム色のほうが似合うって。」
「でも、やっぱり白って憧れるじゃん~。」
ブラウンの髪の女性が、ふと言葉を切って紅に染まる山を見つめた。
私もつい、山の方を見る。
秋風がたなびく山の頂には、天使の羽のような雲が広がっていた。
夏の暑さを置いてきた涼しい秋風が、金色の稲を揺らす。
どこか遠くを見るような目で、ブラウンの髪の女性が囁いた。
「白無垢って、女の子の憧れでしょ~?」
風に揺れるブラウンの髪が、天使の輪を作って煌めいた。
黒髪の女性が、ちょっと苦笑いしている。
「何それ。のろけ?」
「違うし~。」
きゃっきゃ、きゃっきゃと賑やかな女性の声が、窓の向こうからいまだに響いてきた。
本当は、静かなカフェでコーヒーを片手にゆっくりしたい気分だった。
けど、秋の空のように私の気分も変わる。
今は、白無垢にはしゃぐ声に耳を傾けよう。
そんな気分になった。
結局。
最初は真っ白なプリンセスドレス。
お色直しは紅葉のような赤いドレス。
そう決めた彼女たちがその場を去るまで、読んでもいない本を片手に時間をつぶした。