![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/167366136/rectangle_large_type_2_7ef155df13a89321e1c585e1873ec128.jpg?width=1200)
【短歌】白い息で消さぬように
ため息がベテルギウスを消したから次はため息つかずに飲んだ
【星を消すのは惜しい物語】
はぁ
私から漏れた息は、白く宙を漂った。
真夜中の雪道を乱雑な足取りで歩く。
昼に積もった誰も踏んでいない雪が、私の一歩で茶色く汚れた。
年末年始は忙しくて、仕事中ろくに休憩も取れない。おかげで、今日はお昼ご飯さえ食べ損ねた。
はぁ
また宙を舞う白い息。
明日も明後日も忙しい。
仕事納めまであと3日もある。
はぁ
3回目のため息をついたバチが当たったのだろうか。
ため息をついた瞬間、左足が氷の上を滑った。咄嗟に右足を踏ん張って転ぶのを防ぐ、が、辺り一帯が滑りやすくなっていたのか、踏ん張りが聞かずに私は見事転んだ。
ぼぶっ
間抜けな音を立てて、私は背中から転んだ。雪の上とはいえ、痛い。しかも、ジャンバーの隙間、首の辺りから雪が入ってきて冷たい。
ついてないなぁ。
私が、何をしたというのだ。
はぁ
また、ため息をついた。
白い息が、夜空にかかる。
そして、私の息が冬の星座を覆った。
眩い光を放っていた明るい星を、白いため息が通り過ぎる。そのほんの僅かな時間、星が消えた。
1秒にも満たない刹那だった。
息は、空の彼方に散らばっていった。
同時に、消えた星がもう一度見えた。
澄み渡る冬の夜に、オリオン座の目印になる星が見えた。
上に2つ
真ん中3つ
下に2つ
もう一度、夜空に戻ってきた並んだ星。
綺麗だった。
本当のオリオン座は、もっと小さな星も入っている。でも、夜とはいえ街灯があるか私の街では、明るい7つの星を見るのが精一杯だ。
街の明るさに負けず輝く、星々。
私が不意についたため息で消してしまった、星座。
ふと、昔祖父が言っていたことを思い出す。
《ため息をつくと、幸せが逃げていくよ。》
―そうだね。
心の中で祖父に返事をする。
綺麗に見えるはずの星が、一瞬とはいえため息で消えてしまった。きっとこれは、世界にとって不幸だった。
よっと。
慎重に立ち上がって、雪を払う。
背中に入った雪が溶けて、気持ち悪い。
もう一度、ため息をつきかけた。
でも、飲み込んだ。
もう星は消さない。
綺麗なものをため息で消さないように、グッと飲み込んだ。
背中は冷たいし、忙しい日々が続くから体は疲れている。でも、今、世界の不幸を食い止めたような、誇らしい気持ちになった。
明日もまた、頑張れそうだ。
いいなと思ったら応援しよう!
![勿忘草(わすれなぐさ)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/156569457/profile_3fbacdc14dea65eef733d523c9f14e9d.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)