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【短歌】白い息で消さぬように


ため息がベテルギウスを消したから次はため息つかずに飲んだ


【星を消すのは惜しい物語】

はぁ
私から漏れた息は、白く宙を漂った。


真夜中の雪道を乱雑な足取りで歩く。
昼に積もった誰も踏んでいない雪が、私の一歩で茶色く汚れた。

年末年始は忙しくて、仕事中ろくに休憩も取れない。おかげで、今日はお昼ご飯さえ食べ損ねた。


はぁ
また宙を舞う白い息。

明日も明後日も忙しい。
仕事納めまであと3日もある。

はぁ
3回目のため息をついたバチが当たったのだろうか。

ため息をついた瞬間、左足が氷の上を滑った。咄嗟に右足を踏ん張って転ぶのを防ぐ、が、辺り一帯が滑りやすくなっていたのか、踏ん張りが聞かずに私は見事転んだ。

ぼぶっ

間抜けな音を立てて、私は背中から転んだ。雪の上とはいえ、痛い。しかも、ジャンバーの隙間、首の辺りから雪が入ってきて冷たい。

ついてないなぁ。
私が、何をしたというのだ。


はぁ
また、ため息をついた。
白い息が、夜空にかかる。

そして、私の息が冬の星座を覆った。


眩い光を放っていた明るい星を、白いため息が通り過ぎる。そのほんの僅かな時間、星が消えた。

1秒にも満たない刹那だった。
息は、空の彼方に散らばっていった。
同時に、消えた星がもう一度見えた。
澄み渡る冬の夜に、オリオン座の目印になる星が見えた。


 上に2つ
真ん中3つ
 下に2つ



もう一度、夜空に戻ってきた並んだ星。
綺麗だった。

本当のオリオン座は、もっと小さな星も入っている。でも、夜とはいえ街灯があるか私の街では、明るい7つの星を見るのが精一杯だ。

街の明るさに負けず輝く、星々。
私が不意についたため息で消してしまった、星座。

ふと、昔祖父が言っていたことを思い出す。
《ため息をつくと、幸せが逃げていくよ。》

―そうだね。
心の中で祖父に返事をする。


綺麗に見えるはずの星が、一瞬とはいえため息で消えてしまった。きっとこれは、世界にとって不幸だった。


よっと。


慎重に立ち上がって、雪を払う。
背中に入った雪が溶けて、気持ち悪い。


もう一度、ため息をつきかけた。
でも、飲み込んだ。

もう星は消さない。
綺麗なものをため息で消さないように、グッと飲み込んだ。


背中は冷たいし、忙しい日々が続くから体は疲れている。でも、今、世界の不幸を食い止めたような、誇らしい気持ちになった。

明日もまた、頑張れそうだ。

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勿忘草(わすれなぐさ)
よければ応援お願しいます(*・ω・)*_ _)ペコリ