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【物語】頑張り屋さんと閃きさん

むかーしむかしあるところに、
毎日物語を書く頑張り屋のイルカと、
素敵な物語をパッとひらめくサメがいました。

頑張り屋さんのイルカは、毎日物語を創りました。
イルカが創る物語は、派手ではないけど温かい物語でした。
イルカが物語を語ると、小さな海の生き物たちがイルカを囲んで話を聞きます。海の子どもたちはイルカが話す物語を、毎日楽しみにしていました。

ひらめき屋さんのサメは、なにかアイディアが降りてくると、物語を創りました。物語を創るのは、1ヶ月に1回か2回。しかし、サメの創る物語は胸が躍る物語でした。
サメが物語を語ると、暗い海が大冒険の舞台になりました。それを楽しみにして、あちこちの海からサメの物語を聞きに生き物たちが集まってきました。


イルカは、サメに憧れていました。
自分にはない発想、引き込まれる文章と物語の展開。サメみたいな物語を、自分も創ってみたいと思っていました。
「僕も物語を創っているのに。サメさん、突然ひらめきが降りてくるなんていいなあ。」


サメは、イルカに憧れていました。
毎日物語を創って話ができるなんて、ひらめきがないと物語が創れない自分とは違うと思っていました。
「俺も物語を創っているけど、毎日なんてできない。イルカは毎日物語を創れる。いいなあ。」

お互いに憧れながら、
どこかお互いに嫉妬していたので、
イルカとサメはお互いを知りながら挨拶をしたこともありませんでした。


そんなある日、海に大きな嵐が来ました。


大きな風は海を荒らして、
風が作った渦は海の生き物の住処を壊しました。
後に残ったのは、傷ついた海と、傷ついた海の生き物たちでした。


嵐でひっくり返された珊瑚さんごが白くなりました。
大きな木のように揺れていたイソギンチャクはちぢんでしまいました。
嵐に怯えた色とりどりの魚たちは、残った岩の陰で小さくなっていました。


海が、元気をなくしました。


「海に元気を取り戻したい。」
イルカはそう思い、物語を創り続けました。
けれど、海の生き物たちは「また嵐が来るんじゃないか。」と怖がって出てきてくれませんでした。イルカが物語を語っても、海は静かなままでした。

「海に元気を取り戻したい。」
サメはそう思い、物語を創ろうと必死に頭をひねりました。
しかし、ひらめきはやってきてくれません。

うんうんと頭を悩ませていたある日、サメは思いました。
いつどんな時も物語を創るイルカなら、今この瞬間も物語を創れるかもしれない。イルカの物語を聞いたら、何かひらめくかも。

サメはイルカに会いに行くことにしました。



イルカの住んでいる海は、サメが住んでいる海より高くて眩しいところ。
だから、サメはイルカに会うために、上を目指してどんどん進みました。

サメが上昇するごとに、海の温度が温かくなりました。
サメが上昇するごとに、海が明るくてカラフルになりました。

深海ではボコボコという音を立てる泡でさえ、
明るい海ではポコポコと優しい音に聞こえます。

いつも深海に住んでいるサメにとって、明るい海は新鮮でした。

眩しさに目を細めていたら、岩場の陰から声がしました。
耳を澄ますと、物語が聞こえてきます。

そうっと近づくと、温かい光が差し込む海の岩の近くでイルカが物語を読んでいました。

海草が揺れるように光が差し込んでいます。
ゆらゆら揺れる光が、一人ぼっちのイルカを照らします。
観客のいない舞台で一人物語を紡ぐイルカ。

その光景をみて、サメは目を見開きました。
ひらめきが降りてきたのです。


思いついたのは、長い長い海の物語。
傷ついた海の再生物語。



でも、この物語は長く続く物語。
ひらめきだけでは足りません。

サメは、物語を語るイルカのもとに近づきました。
イルカは突然やってきたサメを見て、びっくりした様子でした。
ですが、すぐに物語の続きを話し始めました。



サメがイルカの話を聞いている姿を、興味深そうに他の魚が見に来ました。

その様子を見て、「なにかあったのかな?」と魚の子どもたちも見に来ました。

さらにもっと遠くの魚たちが、「あっちの海で何かあったらしい。」とイルカたちの海まで来てくれました。そして、イルカたちの住む海に行く途中で出会った倒れた珊瑚やイソギンチャクを元の場所に戻してくれました。

少しずつ海に元気が戻ってきました。
明るい海に、生き物たちの活気が蘇ってきます。

イルカが物語を終えるまで、あと15分。
サメが、イルカに「一緒に物語を創ろう。」と誘うまで、あと20分。

海はどこかそわそわした様子で、イルカの紡ぐ物語を聞いていました。




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