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【短歌】境界にて、微睡む


水鏡揺れる世界の境界で微睡まどろむ落ち葉夢か現か


【どこかの物語】

落ち葉を踏むと、かさりと音がした。

下を向く。
私が歩いてきた道は、砕けた落ち葉が広がっていた。

そのまま、振り返る。

町の中心にある、立派な日本庭園。
ここには、江戸時代この地を治めていた藩主が建てた茶室と、それを囲む池がある。池の周りには、楓、松、もみじ、いちょうが所狭しと身を寄せている。

この庭園の大きな池には、言い伝えがある。

もしこの水鏡を覗いた時、水面が全く揺らいでおらずはっきりと景色が見えたなら、その者が生きているのは夢の世界である。魂が肉体に戻れなくなる前に、その者は目覚めなければいけない。



さく、さくっと落ち葉を踏みながら歩いていく。
池のほとりにたどり着いた。


秋晴れで、風がほとんど感じられない日本庭園。


そこには、自分が今生きているこの世界が、夢なのか、現実の世界なのかさえ疑ってしまうほどの、見事な水鏡があった。


私はそっと水鏡を覗く。
ゾッとするほど、池の水はこの世界を忠実に写していた。

今いる世界と瓜二つの水鏡の世界。

ただ1つ、この世界と異なる点があった。


小さな風でユラユラ揺れる落ち葉。
その揺らめきが作る波紋。

その波紋がなければ、きっとこの水鏡の中の風景こそが現の世界なんじゃないかと疑ってしまいそうだ。



現と鏡の夢の境界で、落ち葉がこくり、こくりと転寝うたたねするように揺れる。


世界の狭間で、落ち葉は何の夢を見るのだろう。





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勿忘草(わすれなぐさ)
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