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【物語】星に会う

この町の図書館には、屋上に大きな望遠鏡がある。


静かな町の、静かな図書館。
僕は、夏休みの自由研究の課題を探すため、2階建ての図書館にやってきた。2階建ての図書館の入り口には、掲示板があり、小学校のみんなで書いた星空のポスターが張られている。僕のポスターは、片隅にひっそり飾られていた。

扉を開けて1階に入ると、これまたかわいらしい絵やイラストが飾られている子供図書室がある。中には、絵本や子供向けの物語、子供向けの図鑑が所せましと並べられている。奥には小さなお座敷があり、子供たちが座って本を読んだり、お絵かきしたりしている。

僕は、子供図書館をうろうろしたが、興味があるものはなかった。

面倒だなあ。
なんで自由研究なんかしなきゃいけないんだろ。

どうしようかと悩んでいると、2階に続く階段まで来てしまった。
そういえば、今まで2階に上がったことはなかった。思い切っていってみようか。

ちょっとドキドキしながら、学校みたいな白い階段を上がり、左側にある一般図書室に入った。
ここには、2階には、小説やビジネス書、文学、辞書、専門書がずらりと並べられている。

ぐるりと一周したが、ダメだ。
僕の背では本棚の一番上の本に手が届かないし、タイトルも見えない。
漢字も読めない。つまらない部屋。

子供図書室に戻ろうと思って階段の方へ戻ってきた。
すると、階段の向こう側に「星の部屋」と書いてある看板が見えた。
そして、その隣に少し薄暗い扉を見つけた。

そういえば、この図書館の名物は星だな。
ちょっと薄暗い部屋をドキドキしながら覗いてみた。

部屋には、星空があった。

部屋の中心には大きなプラネタリウムがあり、部屋を美しい宇宙に変えている。入り口の扉を閉めて宇宙に一歩踏み出した。

しゃらしゃら、きらきらという星のような音がする。
足元にも星がある。
星を踏んでしまわないように、つま先でちょっとずつ部屋の中心に歩いていった。

きらりと目を引く明るく白い星。
夜に紛れてしまいそうな青く小さな星。
火の鳥のように燃える、赤く煌々と光る星。

部屋の中心に来た。たくさんの模型が並べられている中に、「このボタンを押してみてね。」と書かれたリモコンがあった。
ピコっと押してみたら、星空が表情を変えた。

星空に天の川が現れた。眩しいくらいの星の川。
天の川の始まりが、奥の部屋に続いている。
まだ、この先に何かがある。

僕は、つま先で、ちょっと急ぎながら次の部屋に向かった。

扉を開けると、眩しい光に目がくらんだ。
薄く目を開けると、たくさんの本とたくさんの星の模型に囲まれた、眼鏡をかけた男の人がいた。

男の人は、机の上にたくさんの本を並べたまま、机の上に置いた本を一心に読んでいる。
時折、なにかをメモしている。

何しているんだろう?

模型と本棚の間を通って、男性に近づいてみた。
男の人は、僕が近くにきても、気づいていないようだ。

僕は、ちょっとびっくりした。

小さなこの町では、すれ違う人みんなとあいさつするし、よく声をかけられるし、よく声をかける。
人と人は会ったらお話するんだと思って育っていた。
それなのに、男の人はうんともすんとも言わない。
好奇心が、爆発した。

何やってるんだろ?
そんなに夢中になるくらい、楽しいのかな?

ひょっこり机を覗く。
漢字でいっぱいだ。アルファベットも書いてある。こんな難しい本、読めない。

それでも、僕ははじっと本を見つめていた。

―――――

私は、目の疲れを感じて読んでいた本から顔を上げた。

そしてびっくりした。
白いシャツを着た小学4,5年生くらいの男の子が、私が読んでいる本をじっと見ていたから。

昔から、自分の考えに没頭すると周りが見えなくなる。ここに来る人も少ないから、つい学術書にのめり込んでいた。

この子は誰だろう?
迷子か?
話しかけようか?
でも、びっくりさせたら悪い。

私は、あまり表情豊かな方じゃないから、こんなに近くに子供が寄ってきたことがない。子供とどう話したらいいだろう。
私が悩んでいると、本を見つめていた男の子が顔を上げて、まっすぐ私を見た。

「これ何?」

男の子が指さすページを見ると、太陽系の星々が並ぶ絵が示されていた。

「これは、惑星の位置を示した絵だよ。」
「ワクセイって何?」
「太陽の周りをくるくる回る星のことだよ。」
「タイヨウって何?」
「そこからかぁ。」

私は、男の子の小さな好奇心に答えたくなった。

これ、何?
あれ、何?
それ、何?

大人が困ってしまうくらい、何々っ子だった幼い私と、目の前の男の子が重なった。

私は、一度席を立って、本棚の下にある小さな引き出しから、とっておきの惑星儀を取り出した。

細かい歯車の上に、青、赤、紫の美しい丸い石がついている。
それは、まるで骨董品のような美しい惑星儀だった。

男の子の眼が、きらきら光った。
星を見る男の子の眼の中に、好奇心という名の星が瞬いた。

この町で天文学者になって早3年。
初めて、星を語らう友ができた。

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勿忘草(わすれなぐさ)
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