「格付けチェック」の幸福論
あなたは「芸能人格付けチェック」というテレビ番組を知っているだろうか?
「芸能人格付けチェック」は,テレビ朝日系列で放送されるバラエティ番組であり,お正月の食卓を賑やかすことでお馴染みである。
具体的な内容としては,芸能人が「高級物」と「安物」を見分ける問題に挑戦し,五感の鋭さを競い合うというものだ。例えば,高級ワインと安物のワインを見分ける問題であれば,回答者は目隠しをした状態でどちらが高級ワインかを当てなければならない。その他にも牛肉の食べ比べ,楽器の聴き比べ,プロの作品と素人の作品の見比べなどもあるらしい。
問題は2択で出題され,Aを選んだ人はAの部屋に,Bを選んだ人はBの部屋に移動する。全員の回答が終わった段階で,最終的に司会者であるダウンタウンの浜田雅功が正解の部屋の扉を開けるのだが,その瞬間の芸能人たちのリアクションが見ものである。
さて,ここで私が問いたいのは,この問題に正解した人(「高級物」を選んだ人)と間違えた人(「安物」を選んだ人)とでは,どちらの方が幸福なのか?ということである。
正解した人は,2つの選択肢の中から高級な方を当てたということで,鋭敏で優れた味覚と嗅覚の持ち主である。そのような感覚の敏感さというのは,ほとんど生まれつきのものであろうから,その持ち主は幸福であると言える。
他方間違えた人はどうだろうか?正解者ほど優れた味覚や嗅覚を持っていないという点で不幸だと言えるだろうか?
ここで重要なポイントは,正解した人も間違えた人も,両者とも「こちらが高級ワインだ」と思って回答したということである。つまり値段・ラベル・色などの情報は隠され,味覚と嗅覚だけで本気で判断した結果なのだ。
だから間違えた人は,結果的には不正解だったかもしれないが,安物のワインで高級ワインと同等の満足感を得られたと言えるのではないか。経済学的に言えば,より低い価格でより大きな効用を得たのである。誤解を恐れずにもっと簡単に言えば,「コスパ」がいいのである。
「格付けチェック」の問題は,ワインの味とその値段が正の相関関係にあることを前提として出題されているが,これは交換価値と使用価値の混同を促すものである。交換価値は客観的な数字で表現されるが——すなわち値段そのものであるが,使用価値を定量的に計測することは困難であるか不可能である。一体どうやったら,ワインがどれだけ美味しかったかを客観的に数値化することができるのだろうか?実際,交換価値と使用価値は全く異なる性質を有しており,両者は必ずしも正の相関関係にはないのである。
これらのことを考慮すると,私は間違えた人(「安物」を選んだ人)の方が幸福であると思う。この場合,私は交換価値よりも使用価値の方を重視する。すなわち値段が高かろうと安かろうと,本人が「こちらが高級ワインだ」と感じたならば,彼にとってはそのワインの方が使用価値が高いのである。そうであるならば,安物のワインをより美味しく感じられる者の方が幸福であると私は考える。
もちろん,正解した人の優れた味覚を過小評価するつもりはない。それはそれで,天から与えられた才能であると思う。
以上が私の検討の結果である。倫理学上の問題にもちろん正解はない。あなたはどう考えるだろうか?