母の三回忌に突然現れた猫
昨年の10月中旬、母の三回忌だった。私は仏壇周りの掃除や仏花、お供えのお菓子の準備のため前日朝に帰省。
お昼前から、父に乗せてもらい花屋から帰宅。昼ご飯を済ませて、台所で片付けをしていたら、どこからか鳴き声がする。
何の声??と思い、廊下に出てみると、玄関が30センチくらい開いている。玄関前の廊下には一枚板の衝立があって、何かは見えない。
チッ…
自然と舌打ちをしてしまう。
父は絶対に引き戸を閉めない。必ず少し開いている。家の中も玄関も。何十年注意しても直らない。虫は入るし、風は入るし、埃は入るし。
もうーーーっと言いながら、玄関前に行くと…
えーーー猫が玄関前で座ってる!!
むっちゃ鳴いてるし!!
でも、決して入ろうとはしない。私が玄関に降りると、少し下がって座る位置を変えた。
父を大きな声で呼び寄せると、父も驚いているではないか。
「いつもこんな感じで家に来るの?」「いやーー見たことない!!」
庭に野良猫が走っていても珍しいことではないが、人間の姿を見たら絶対に近づいてはこない。
お腹が空いて鳴いてるのだろうか。父は残りご飯でも…と言うが、家に餌になりそうなものはない。金魚しか飼ったことがない私でも、人間の食べ物は塩分が多いことは分かる。
いつもの私なら確実に追い払っていた。なぜだか分からないけど、その時はそんな気持ちにならなかった。
私は近くのスギ薬局へと自転車を走らせる。買って戻ってもいないかもしれない。でも!走らずにはいられなかった。
ズラッと並んだキャットフードの棚。テレビでよく見るチュール系は値段が高い!普段、値段見ることもないもんなーと思いながら、安いけど無添加カリカリ系を購入。
急いで家に戻ると、庭に場所を変えて待っていた。
小さなお皿にパラパラとカリカリを入れる。
私が近づくと、猫は遠くなる。
お互い見つめあったまま、時間だけが過ぎていく。猫からしたら、父と私が目の前で構えているのだから怖いはずだ…諦めて、家の中に入る。
カーテンの影から覗いていると、警戒しながらも皿に近づき、すごい勢いで食べ始めた。やっぱり、お腹空いていたんだね。
グレーの毛色、濃淡あり模様なし。
痩せて毛はボロボロだし、尻尾は短く、子猫ではない。
まだまだ足りないのかニャーニャー鳴いていたが、そのうちどこかへ行ってしまった。
その夜、父と「不思議だねぇ、不思議だねぇ」と何度も言い合った。
次の日、午前中に三回忌は無事終了。お坊さんを見送りに玄関を出ると、庭で昨日の猫が鳴いている。
おーおまえもお経を聞いてたんか
ようお参りしてくれた
母は猫が好きだった。
私が3歳頃まで飼い猫がいたらしいが、私がこねくり回すから逃げてしまったと…哀しそうに話していたことを思い出す。
この猫は、母が呼んだのか?
母の三回忌に訪れるなんて、何かに呼び寄せられたとしか考えられない。
猫は、昔から縁起がよい動物として知られているし、様々な迷信もある。古代エジプトでは、猫は神として崇拝されていたこともあったとか。
私は、どちらかといえば犬派だったが、アニメ「ラーメン赤猫」を観て以来、すっかり猫派になってしまった。
昨日のお皿にカリカリを入れて軒下に置き、その場から離れた。
私は夕方には自宅に帰らなければならないので、父と幾つかの約束をした。
庭に餌をまくようなことはしない
猫が来た時しか餌を出さない
猫に触らない
家の中に入れない
その後、猫は2日間隔くらいで姿を見せているという。私も帰省時に会えたり、会えなかったり。
最近は、父がカリカリの袋を揺らす音で近くに寄ってくるそうだ。
先日の正月帰省時、洗濯物を干しに出ると、庭で日向ぼっこしている猫に会えた。まるで推しに会えたかのように、キャーキャー騒いでしまったが、猫本人は目を細めて気持ちよさそうにあくびをしていた。以前見た時より、毛並みも良く顔も丸くなったような…冬毛だからかな。
アニメの猫のように、話せたら面白いのにね。
どうして、玄関で鳴いていたの?
夜はどうしてるん?
うちのお母さんと関係あるの?
うちのメダカは襲ったらダメよ
きっと、うち以外にも他に行く場所がたくさんあって、夜は寝る場所も決まっているのだろうな。
車庫の前のアスファルト部分で、身体を擦り付けてみたり、虫を追いかけたり、見てて飽きない。
フラッと来て、フラッと帰る。
付かず離れず、一定の距離を保ちながらの良い関係。人間もこうありたい。
減っていた同じカリカリを買って、玄関に置いてきた。暇なじいさんの遊び相手ができて良かった。
猫も自由だが、父も自由だ。