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失敗作の時間

美しさに近づきたいなら、醜さを隠すこと
美しいことよりも美しさを装うことのほうが、道も人もやさしい

言葉は人を救わない。言葉が救うことができるのは時間だけだ

どんなふうに救われたいか
人の発した言葉の、意味の源を突き詰めると、ついにはそこに行き着くという気がしている

どんなふうに救われたいか
その極限まで婉曲した言い換えこそが言葉だ

言葉自体が、そのあるかないかの救いを遅らせていることもわかる
言葉がつむがれるほど救いが遠ざかり、それによって時間というものが流れはじめるのだとしたら、救われるのはやはり時間だ

私たちの救いは、いつまでも未来にとって置かれる

言葉はあなたの救いを忘れさせて、あなたに流れている時間を救う

けれども、完全に忘れられるはずがないから、次の言葉をあなたはつむぐ
そのそばから忘れかけて、だけど忘れられなくて、まるで忘れたがっているみたいに、つぎつぎ言葉が吐き出されてくる

この戦いが、時間をつくる。言葉が救っているのはこの戦いだ。忘れることと忘れられないことのあいだの戦い。

けれども、救いさえ、自分も時間も含めたあらゆる救いさえも、忘却させるような言葉があってほしいと願う
あらゆる救いを拒んで遠ざけて忘れさせる言葉
この完璧な忘却への願いから、詩ははじまっていくのだろうか

あらゆる言葉は、この完璧な忘却の失敗作ではないか
時間は、この失敗を取り戻そうとしてさらに失敗を重ねていくことから生じる。忘れることの失敗につぐ失敗につぐ失敗につぐ――


読んでくれてありがとう。

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