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未完の故郷

故郷は、誕生より死に結びついているという気がしている。

最期の瞬間をいつまでも、心の中でつながって待っている場所が、故郷だ。

故郷喪失とは、ある生を失う以上に、いくつもの死を失うことだ。

あなたの死について考えることは、いつだって私の死について考えることで、私の死について考えようとするたびに、あなたはあなたでなくなっていく。あなたの死を、見失ってしまう。

背中に羽が生えようとでもしているかのようなその痛みは、まだ生を証明してくれている
いったいどの時点で、その痛みは死への鼓動に変わるのだろうか。その痛みがいつ、あなたの故郷を響かせるのか

燃えるような、という比喩はいつも生温く感じられて、といって使うこともそんなにないけれども

心臓が、一つ鼓動を打つごとに、しだいに幻の残響を響かせなくなっていくことが、死へ近づいていくということなのか?

故郷は墓標なのかもしれない
けれども、「わたし」のどんな想像も創造も、それをとらえることは叶わないとされる
そこに書かれた文字も、その形も、その場所も、それについて考えることを放棄することでしか、とらえきれないかのようだ

忘れていたことをついに思い出したようなのに、なにひとつ思い出せていない

死の瞬間に、すくなくとも意識の途切れてもう後戻りもその先もなくなるときに、どんな思いがそこを占めているのかを考えてみる
きっとその思いは完結しないだろう
句読点ぴったりに重なってくれるほど、死が律儀とは思えない
このことを考えてみることは、だからどんな中断で終わっていたいかを考えることなのだろう

故郷とは中断のことなのか

せめてそれを愛せるような未完へと死んでいくあなたを送り出せるように。
それしかできない
それをすれば、あなたをわたしよりも生かすことになるだろうか
せめてそれがあなたを感じることであってほしい


読んでくれて、ありがとう。

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