【エッセイ】静寂性
どんなふうに黙ってみても、求めていた静寂はやってこない。
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どんな静寂を求めていたのかわからないけれど、ここにあるものは求めていたそれでないことははっきりと感じられる。
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今何が、どんなふうに黙り込んでいるのか。耳を澄ましたとたんに消えてしまう。
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それをずっと昔に、手放したことを覚えているような気がする。
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はっきりとそれは自分のものだと言えないモノについてしか、自分のモノだと言うことができない。
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自分のつくった喧騒の隙間を、無数の静寂が何とすれ違うわけでもなく通り過ぎていく。
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すばらしい思いも信念も、伝え方が適切でなければ伝わらない。適切なフォーマットにのせなければならない。もちろん、この適切さは、なにをあらわすかだけでなく、なにをあらわさないかにもかかっている。この沈黙の仕方は、時代によってちがう。
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仮に同じ思いでも、百年前の伝え方では色褪せるように、今の伝え方も百年後には色褪せていないとは限らない。たとえ同じ時代であっても、あなたの静寂が、隣の人には意味不明というような事態はよくあることだ。
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あなたに、その思いが伝わるために、選ばれた静寂がある。あなたのために、未来永劫黙したなにか。
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冗長さが適切であっても、簡潔さが適切であっても、
そのどちらかによって、静寂が小さくなるわけでも大きくなるわけでもない
喧騒が巨大な静寂ということも、
静謐がうるさすぎるということもざらにある
選び方ひとつで、その静寂をどうこうできるというでもない
読んでくれて、ありがとう。