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【完】刹那的たまゆらエセー

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後から推測するところ、この断片たちの主なテーマは、信じること、忘れること/ 裏テーマとして「なにかを創るとはいったいどういうことなのか」/ 最初に問題設定があったわけではなく、書…
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2024年11月の記事一覧

【エッセイ】輪廻

誰にも気づかれずに、胸にしまっておかれた、誰も(自分でさえ)見向きもしないような秘密が、また今日も消えていく。 * なにも古びていきはしない。新しいものもなにもない。はじまりも終わりもここにはないのだから。秘密にさえならなかった果てだ。 ≒ 私たちの心にやってくるのは、二度と戻ってこないものばかり。いつか失われるものと、もう失われたもの。  ≒ 忘れ去られたものだけが、滅びない。思い出されるたびに、「それ」は滅びていく。けれどもそうやって思い出されるたびの滅びのひ

【エッセイ】世界と心の結び目

花という世界の結び目、時間の流れの中わだかまった小さな渦。私たちの視線は、ときおり、その上で時間を過ごし、世界の秘密がそこにのぞいているような感覚を覚える。 ≒ その向こう側を見たがっているのかはわからないが、私たちはその向こうとこちら側についてしか、語れない。向こうとこちらを行き来して、なんとかそれに触れよう、せめて掠めすぎようとする。 * ほどこうと願うほど、その結び目は硬くなり、からまっていく。ついには私たちの視線も、心も、その結び目に絡まった一部になっていく。

【エッセイ】「諦める」ことと「忘れる」こと

なにかしらを「諦める」、「諦めた」というとき、そこにある状態は奇妙だ。その対象に向かう自分の感情や願望を断ち切ろうとするようでいて、そうやって断ち切ることそれ自体によって、新しい繋がりが生まれるからだ。 ≒ なにかを「完全に」諦めることはできない。別の言い方をすれば、「諦める」という言葉は、それ自体が常に矛盾している。 * 矛盾した状態を意味しているのではない。その言葉が連想させる運動、それ自体が矛盾している。 * 結局のところ、ひとつの絆ができあがってしまった以

【エッセイ】記憶の芯

そのとき、先生が自分に言った表情は思い出せる。その言葉も。だけどその顔ははっきりと思い出せない。 * 言葉がはっきりと響いてくるほど、表情がくっきりとしてきて、それにつれて、そこにあったはずの先生自身の顔がぼやけていく。あるいは、その記憶から無駄が削ぎ落されて、純粋になっていったのだろうか。 ≒ もしそうやってぼやけていくのが純化だとして、そうやって記憶が純粋になっていくほど、それを思い出す瞬間のどこかが、ますます汚らしくなっていくように思える。 ≠ どんな人の顔

【エッセイ】誰のためでもない代わりに

なにかを信じるというとき、それはいつも、誰かの代わりにだ。 * 誰の、何の名においてでもなく、代わりに。 ≒ それを信じきれなかった人の代わりなのか、信じなかった人の代わりなのか、疑った人の代わりなのか、憎んだ人の代わりなのか、そもそも信念も疑念も抱いたことのない誰かの代わりなのか。 * 誰の代わりに信じているのかは永遠にわからない。私たちがいなくなっても、その信念が消え去っても、この謎だけは残りつづける。 ≠ その誰かを忘れるほどに信じる感情は強まっていくか