下鴨納涼古本祭りレポ
8月12日、今年も京都は糺の森で行われる下鴨納涼古本祭りに行った。京都のみならず関西圏の古本屋が出店し、約80万冊の本が並ぶ。
私はこの古本市に行くのが長年の夢だった。浪人期に読んだ森見登美彦の「四畳半神話大系」の作中で、この古本祭りの存在を知った。大学生のうちに絶対に行くことを決めていたが、コロナの影響で一回生と二回生のときには中止になってしまった。
昨年初めて行ったときは物量に圧倒された。あと古本といってもブックオフみたいに安売りされているものだけではなく、そこそこレアな本もあるため値段の振れ幅が予測できていなかった。金が足りない。その上、木陰になっているとはいえど非常に暑かった。京都の暑さをナメていた。結果あまり集中することができず後悔が残った。
今年は暑さ対策を万全にし、予算を決め、昼飯の店も確認した上で古本祭りに臨んだ。早朝に在来線に乗り込み、くるりを聴きながら京都に向かった。2時間程電車に揺られると京都タワーが見えてくる。京都駅でバスに乗ってさらにバスで移動すると糺の森に着く。
今年も相変わらずの物量だった。どこから手を付ければ分からない。しかし、昨年の反省を踏まえ、完全無欠となった私は何の問題もなかった。今年は事前に買う本をある程度決めておいたのだ。
今回私が狙っていた本は主に3冊。
1冊目はゲーテの「色彩論」。
理由はどこかで名前を聞いたことがあり、なんとなく読んでみたいと思ったから。
2冊目はハイデガーの「存在と時間」。
睡眠用に「存在と時間」をYouTubeで流しているが、最後まで聞けた試しがないので、自分で本を買って読んでみたくなった。
3冊目は大橋裕之の「ゾッキA」である。
竹中直人、山田孝之、斎藤工が監督を務めた映画の原作漫画で、何の気なしに読んでみたくなった。
この3冊を選んだのは「なんとなく」という理由で、ここに高尚な意志はない。
しかしテントの隅から隅まで、いくら探せど目当ての本は見つからない。自分の目が耄碌したとも思ったが、私はまだピチピチの22歳なのでそんなはずはない。人間は何かを手に入れるために手を伸ばそうとすると、その目標から遠ざかってしまう生き物なのかもしれない。井上陽水も言っていた。
とりあえず休憩がてら屋台に出ていた瓶ラムネを飲んで、自分が置かれている状況を整理した。
①自分のお目当ての本はこの古本市にはない。
②それといってほしい本があるわけではない。
常人はこの思考に行き着いたらそそくさと尻尾を巻いて帰りのバスに乗るだろう。しかし私は阿呆である。京都まで来て手ぶらで帰る情けない男になりたくないと思っていた。
そう思うと私の足は再び古本の棚に向かっていた。自分の直感でいい本を買おうと強く決意した。
30分程散策していると重厚なカバーに入った得体の知れぬ本と遭遇した。梅田晴夫著の「紳士のライセンス」という本だった。
私の中の「こういうのでいいんだよセンサー」が敏感に反応した。値段を確認する前に私は手に取った。
偶然というモノは連鎖していくもので、その本の隣には河合隼雄の「影の現象学」を見つけた。この本は大学の図書館で借りて夢中で読んでいたのだが、忙しい大学生なんぞに2週間の貸し出し期間程度で足りることなく、そのまま読めずにいた。ここでまた巡り逢えた。
興奮が醒めやらぬまま、近くにあった「池波正太郎の『映画日記』 最後のジョン・ウェイン」も買ってしまった。池波正太郎が映画監督ということしか知らないのに。恐るべし池波正太郎、いや、恐るべし京都。
会計を済ませ、別のテントにも心ここにあらずの状態で向かった。このときはほぼ酩酊状態でしっかり見ていなかった。が、卑しい性分のため「1冊200円、3冊で500円」という本棚は両の眼で捉えた。金のない大学生にはなんと魅力的な文言だろうか。即座に物色を始めた。
ここの本棚にはあまり小説や学術書はなかった。写真集や美術館のパンフレットがメインだった。色々気になるものはあったが、私の琴線に触れたのは、どこの国から出されたか分からない写真集(そもそも写真集かどうかも分からない)と、ガラス工芸品の展示会の図録だった。
残る一冊は、「SOUP SOUP SOUP 洋と中華のおいしいスープ86」という古今東西のスープの調理法が記されたレシピ本だった。この一冊はどこか可愛らしげな表紙をしていたためつい手に取ってしまった。
以上の6冊がこの夏の戦利品となった。本来の目標とは大きくかけ離れた結果だが文句はない。なんなら大満足だ。
このまま河原町にある中華料理屋の龍鳳という店でカラシそばを食べれば完璧な旅行になる。はずだった。生憎のお盆休業中でその願いは叶わず。暑い中結構歩いたため、体力と精神の両方を消耗してしまった。
気分を変えてハイカラな洋食でも食べようと思い、レストランスター四条寺京極店でミックスフライ定食を食べて帰ることにした。うまい
思ったようにいかないこと続きだったが、一人旅はその不都合を誰かと共有しなくても良い点にメリットがあると私は思う。
買った本をパラパラとめくりながら在来線に揺られ、アジカンを聴いて帰る。そんなプチ旅行だった。