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私の小さな幸せ

秋の風が心を通り過ぎるとき、
私は私に「おかえり。」という気持ちになる。

忙しない日常の中で敢えて1人になって感じる孤独は自分自身を思いだす為の良い薬だ。

行きつけになりつつある人見知りの店員さんがやっている小さな喫茶店で紅茶と甘いものを頂いてお持ち帰りで焼き菓子を買った後、初めて入る古本屋さんに行った。

雑多に並ぶ沢山の本とレコード。

目移りしながら眺めていたら店の扉から名前の知らない小さな白い蝶々が入ってきて、床に重ねてある古い雑誌や漫画の上を昼間の温かい光を浴びながら気まぐれに飛んでいた。とても美しい光景だった。

ジョン・レノンとオノ・ヨーコが頬を寄せ合ってキスをしているレコードが目に入って、レジの後ろには不思議な形のギターと小さなアンティークの茶色の丸い椅子、売り物ではない店主の趣味であろう外国人の顔が映った大量のレコードがあった。

お客が来ても放ったらかしにするその怠惰さが心地が良い。

目当ての本を買うために本屋さんに行くのではなく、初めて出会う本の背表紙に繰り返される日常で凝り固まった心を解して貰うために私は古本屋さんに入るような気がする。
それから普段心の中で考えている事に関連する事にシンクロする本を偶然見つけると嬉しい。

心の惹かれた本を3冊だけ購入した。

喫茶店も古本屋さんもそうだったけれど、今この時代に現金払いのみの小さな個人的を私は贔屓したくなる。

その後は古本屋さんの近くにあった個人で経営しているクリーニング屋さんがお店の一角にほとんど趣味で出しているであろう古着たちをみた。

レジに座るとても失礼だけれど、お洒落に無頓着そうな店長さんからは想像出来ない素敵な古着がたくさん置いてあって、しかもほとんどが500円以下、こんな場所にこんなお宝が埋まっていたとはというソワソワした気持ちになる。

土を掘るように洋服を見ていたら店長さんが親しみの含んだ声をあげ、知人であろう大学生くらいに見える男の子の肩を叩き再開を喜びあっていた。

その大学生をレジの内側にある椅子に座らせて楽しそうに談笑している姿がとても微笑ましかった。

可愛いリボンのついたトップスはたった300円でこちらがお金を支払ったのに何倍も綺麗なものを頂いた気がした。

左手には喫茶店で買った焼き菓子の紙袋、そして腕には本屋さんで買った本の入ったビニール袋。
右手にはクリーニング屋さんで買ったかわいいお洋服を持つ。

両手が埋まって頬で感じる秋の風が心地いい。
風が私を通り過ぎていく。

最近忙しかったよね、やっと2人きりになれたね。
私は私にそんな言葉をかけたくなる。

1人でも独りじゃない。
今ここにある小さな幸せを抱きしめる。

私は私というものを思い出した事に安心しながら、早く家に帰って今日買った本を読みたくて、自然と早足になっていた。

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