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【ヒルトンホテルでおひとりさま③】喫煙所に響き渡るギリシャの天使の歌声。シンクロ炸裂!大浄化の旅の大トリギフト。
優雅なバスタイムを満喫しつつ、数時間に一度外の喫煙所へ足を運ぶ。
この日は雨風がものすごく、屋根付きの囲われた喫煙所ですら雨が降り込んでおり、ベンチも濡れていた。
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フロント周辺で丁寧に清掃をしていたクリーナーのおじさんを見つけて、
「何か拭くものありますか?ベンチが濡れていて座れなくて。」
と尋ねると、
「2階に行けばあるんだけど今手元にはなくてね。」
クリーナーさんはモップを片手に清掃している最中だった。
「忙しいところごめんなさいね、ありがとう!」
と告げ、戻ってベンチの前で立ってタバコを吸っていると、しばらくして彼がやってきた。
「これしかないんだけど、よかったら使って!」
と、生成り色の大きなシーツのようなものを手渡してくれたのだ。
週末の夜一人で清掃忙しいだろうに、私の要望に応えてくれた親切さと誠実さ、ホスピタリティに感謝が込み上げた。
「わざわざありがとう!なんて優しい人なの!」
とありがたく受け取り、雨で濡れたベンチにそれを敷き、おかげさまでのんびりと夜中の喫煙タイムを楽しませてもらうことができた。
夜中になると喫煙所はさすがに人も少なく、私の隣には一人の女性のみ。
しかしバスタブって最高だよな、身体はぽっかぽかだし心までクリアになるよなぁ、なんて至福の時間を感じながらぼーっとしていると、隣の彼女は電話をし始めた。
聞こえてくる会話が、なんとギリシャ語だったのだ。
まさに冷戦状態の私のパートナーはギリシャ人。
私がギリシャ語を勉強し始めたのがきっかけで出会った。
モチベーションが下がり、私のギリシャ語は赤ちゃんレベルからまったく進歩していないものの、それがギリシャ語ということはもちろんわかるし、会話によっては何を言っているのかも多少わかる。
ギリシャ人の人口inギリシャは、約1100万人。
日本人の10分の1程度しかいない。
日本に住むギリシャ人はたった500人程度しかおらず(数年前の統計)、おそらく日本にいてギリシャ人に出会ったことのない人がほとんどだろう。
そんなギリシャ人(まだ確定していないが、ギリシャ語がネイティブなことは確か)が、たまたま宿泊しているこのホテルの喫煙所にいる不思議。
こんなことってあるんだなぁと、It's a small worldを感じていたのだった。
お借りしていた生成りのシーツをクリーナーのおじさんに返し、
「親切さに感動しました、ありがとう!」
とお礼を言うと、優しい笑顔をくれたのだった。
翌朝、朝食会場へ行く前に喫煙所に立ち寄った。
すると、昨夜のギリシャ語で電話していたあのお姉さんがまたいるではないか!
まさかずっとここで夜を明かしたわけではあるまい、相当数の部屋のある大きなホテルで、たった数分タバコを吸うここで同じ人と出くわすこと自体が珍しい。
彼女はこの時もギリシャ語で電話をしていて、聞こえてくる会話から相手はお母さんだと悟った。
低血圧で頭がぼーっとしている私の新しい朝が、ここから始まる。
しばらくすると、同じく喫煙者の彼女がライターをつける音が数回聞こえた。
何度も何度も、どうやら火がつかないようだ。
私がスッとライターを差し出すと、「Oh thank you!!」とにっこりしてくれたので、私が「パラカロゥ!(ギリシャ語でどういたしまして)」と返すと、彼女は目をまんまるにして驚いた。
アジア人がギリシャ語を話すことはもう現地の人にとっては珍しすぎて、例外なく誰もが笑顔になる瞬間なのだ。
特にギリシャでの日本人気はすごくて(アニメの影響が多い)、「一度は行ってみたい夢の場所よ!」とみんなが口を揃えて言ってくれる。
「私のパートナーがギリシャ人なの!」
と私が言うと、彼女は更に驚いて
「What....Wow!!!!
ちょっとだけ待って、詳しく聞かせて!」
と、タバコに火をつけながら早々にお母さんとの電話を終わらせた。
彼女はやはりギリシャ人だった。
9年付き合っている彼氏とド派手な大喧嘩をして、ギリシャを飛び出しイギリスにやってきたらしい。
今日これからアメリカへ飛び立つらしく、チェックアウト後にここで休んでいるタイミングで私が現れたそうだ。
「大喧嘩後に飛び出してきた」という同じ境遇に、既にお互い親近感が湧きまくった。
「なんであんな自由でtake it easyな彼が長年私と一緒にいるのかまったくわかんないわ。私も仕事をしているけれど、保守的で家庭にいるのが好きなのよ。」
そう言ってくれた彼女。
なんとなく、私たちの性別が逆バージョンだなと悟った。
私も大喧嘩をして出てきたことを伝えると、
「彼はちゃんとごめんねって言った?連絡してきた?」
と尋ねてきたので、どちらもまったくないわと言うと、
「はぁっ(ため息)!ギリシャの男は全然ダメねっ!!
素直に謝れないし、自分がキングか何かだって思ってる頑固者なのよ。
文化もあるとは思うけど、自分の非を認められないのよね、ほんっとダメ!!!」
( ゚д゚)!!
アツい!!
おそらく自分の体験も含めて、私よりもアツくなってくれた。
「連絡は私も望んでないわ、私はひとりになりたかったしそれをわかってるから尊重してくれてるんだと思ってる。
けど、頑固で謝れないってのはもうほんとそれ!!!」
とギリシャ人男性あるあるをしばらく語っている内に、この”あるある”が伝わるどころか、骨の髄まで理解がありギリシャで生まれ育った彼女との突然の会話が、別の角度からヒーリングしてくれたような感覚だった。
ギリシャは日本の歴史とよく似ていて、イメージ的に九州男子とかかあ天下のような構図が出来上がっている気がするのだ。
もちろん日本と同じく家庭によって様々だが、頑固一徹!のお父さんをたてつつ、裏でいつも手綱を引いているのはお母さん、みたいな、伝統的なそれが浸透しているような文化。
私の父はまったくもって亭主関白とはかけ離れていたし、偉そうに振る舞っている姿を一度も見たことがなかったし、それでも器が大きく優しく、スケールの大きい自由で変な人だった(称賛のことば)。
だから、節々に出るパートナーの亭主関白みにまったく理解できず、単純な「は?」から派生するぶつかり合いが多かったりするのだ(書いていて至極しょうもないなと思ってきた)。
「私はアテネの近く出身なんだけど、彼はどこなの?」
彼女の質問に彼の出身地(ギリシャ北部、カテリーニという小さな町)を告げると、彼女はアンビリーバボーーー!!の表情を炸裂させながら、
「私のいとこがカテリーニに住んでるのよ!
今年の夏も行って、毎日ビーチに通ったわ!!」
( ゚д゚ )
この世は、私たちが思っているほど広くないのかもしれない。
カテリーニって、ギリシャの中でも大きな町でもないしむしろ田舎の小さな町。
そこに、たまたま今ライターを貸したのがきっかけで出会った彼女のいとこがそこに住んでいて彼女も訪れる、と。
私の質問に、さらにサプライズは続く。
「もしかしてあなたポンティアン?
彼はポンティアンなんだけど。」
ポンティアンというのは、ポントス地方でオスマン帝国時代にトルコとの間に思想の違いにより領土を奪われたりという歴史を持つギリシャ人。
ここで詳しく説明は省くが、現在トルコの領土の一部は昔ギリシャだったという歴史背景がある。
カテリーニには、このポンティアンの人のコミュニティがあったりするので聞いてみたのだ。
「ええそうよ!私もいとこもポンティアン!!
今からアメリカのフィラデルフィアに行くんだけど、まさにポンティアンフェスティバルに参加しに行くのよ!!
彼の名字は何ていうの?カテリーニに住んでるいとこ、もしかしたら知り合いかもしれないわよね!?」
( ゚д゚ )(数度目)
自分で尋ねておきながら、予想が当たり本当に驚いた。
ギリシャ人のコミュニティも密だが、ポンティアンのコミュニティは更に距離が近く密の密だ。
彼の家族はみんなポンティアンなので、ポンティアンの挨拶を私がするとみんな一斉に笑顔になって親しみがMaxになる。
もちろんこの挨拶を彼女にもすると通じて笑顔が咲き、私が知らないポンティアンの用語も教えてくれたのだった。
私が日本人だと言うと、更に彼女はキラキラと目を輝かせ、
「Wow!!! 日本は私にとって夢の国よ!いつか絶対に行くって決めてるの!
私、大好きな日本の曲が2曲あるんだけど聴いてくれる?」
そう言ってすぐに、彼女は私の目を見つめながら歌い始めた。
残念ながら私の知らない曲だったが、昔のゲーム?アニメ?の曲だったらしく、たしかにメロディが歌謡曲っぽくレトロな雰囲気の曲!
彼女は日本語を話せないのだが、歌っていた歌詞の発音は日本人と同じレベルで本当に驚いた。
そして、透き通る歌声とギリシャ人特有の低めの声が最高の塩梅でミックスされていて、歌い終わった後に「歌手やってるの?」と聞いたほど上手く、とてもとてもエモーショナルになり心に響く歌声だった。
まさか朝からホテルの喫煙所で、ギリシャ人に日本語の歌を披露してもらえる未来があるなんて。
ひょんな奇跡的な出会いにより、想像のしようもない時間を過ごしたのだった。
「あ、そろそろ行かなきゃ!」
奇跡の出会いをしばらく二人で共有していたが、彼女のフライト時間が近づき立ち上がった。
「結局のところ、男性が不機嫌になったりするのって、女性の内側から放つ大きなパワーに圧倒されてるのよ。
”敵わない”って思っているけど素直に認められないから、そう表現するしかないのよねきっと。
女性の内側のパワーって、私たちが思っているよりきっと相当強いわ。」
お姉さん。
もっ、もしかして、ここに来る直前に私を浄化してくれた、”女性性”の町グラストンベリーからの使いの天使か何かですか?
「私たちは私たちでうまくバランスとって、たまにこうして旅にでてリフレッシュして、楽しみましょ!
何かあったらいつでもテキストして(インスタを交換した)!
もしこれから帰って彼とうまく行ったら、今度はカテリーニのビーチで再会しましょ!!
お互いどうなるかわからないけれど、再会できるのを楽しみにしてるわね♡!!」
最後にそう言って、彼女は私と同じ赤いスーツケースを引いて空港へ向かったのだった。
「引き寄せの法則」については今まで本も読んだし実生活でも実感しながら今まで生きてきた。
当たり前にそれはあるし、今起こっていることが私のエネルギーと呼応して起こっている。
要は、気づくか気づかないか、シンプルな話なのだ。
同じことが起こったとしても、何も気づかずに素通りするのか、その事象を通して自分と向き合ってみるのか、選択肢は無限大にある。
いつも本当にありがたいと思うのは、私が旅に出ると必ず何かや誰かとの奇跡的な出会いに恵まれることだ。
玄関のドアを開けて外に出て、心をクリアに保つ。
これだけできっと、普段よりも面白いことや感動のかけらがあちこちに転がっていることを感じて生きていける。
彼女の後ろ姿を送りながら「やっぱりこの世はIt's a small worldだな」と確信し、ありがとうと心から感謝した。
ぼーっと脳が動かない朝の時間にギラギラの太陽が昇ったような感覚だった。
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彼女の素敵な歌の余韻に浸りながら、いい香りのする朝食会場へ足を運んだ。
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