海外デザイン留学のその後…2023年始の現在地とこれからのこと
「最近なにしてるの?これからどうするの?」と聞かれることが増えたので、一体どこで何をしているのか、何ができて何をやりたいのか、まとめてみることにしました。
また、海外デザイン留学を目指しておられる方からよくいただく「卒業生はどんな仕事をしているんですか?」というご質問への一回答にもなればと思います。(マジョリティの進路とは違う気がしますが、こんな選択をしている人もいるということで、、!)
2023年の1年間は、生活費が高すぎるロンドンでサバイブすべくがんばりますので、リモートで貢献できるサービスデザインやリサーチ、伝統産業・文化にまつわるプロジェクトがあれば、文末の連絡先からお気軽にお声がけください。
近況をおしゃべりする、ざっくばらんなオンラインでの雑談も大歓迎です!
改めて自己紹介
いろんな節目が押し寄せた2022年だったので、自己紹介もアップデート。
修士課程を修了しました
2020年秋に進学した英国Royal College of Artサービスデザイン修士課程、無事に修了することができました。進学の背景はこちらのnoteに。
コロナ禍ではありましたが、初めて触れるサービスデザインの視点から、今までがむしゃらに実践してきたことを見つめ直す2年間でした。
卒業プロジェクトのこと
RCAの卒業プロジェクトでは、前職でも取り組んできた「大量消費から一つのものを長く使う暮らしへの移行を目指して、消費者のモノとの付き合い方を変えるような体験を実現するには?」をテーマに据えました。
インタビューなどのデザインリサーチをもとに、新規サービスを検討。
ただインタビュイーに質問を投げかけるだけでは話が深まりづらいので、ボードや写真を使ったワークを取り入れたり、自宅を訪ねてリビングの様子や家族とのコミュニケーションを観察したり、簡易なスケッチやプロトタイプを用意したり、本当に色々な調査方法にトライしました。
私の中では課題も山ほど残ったプロジェクトなのですが、「Global Design Graduate Show 2022 in Collaboration with GUCCI」にてサービスデザイン分野のファイナリストに選んでいただきました。
至らない部分も含めそれが現在地ということで、こちらからご覧いただけると嬉しいです。(不完全でもいいのでとにかく表に出してフィードバックを得る姿勢が染み込んだのは、小さく早く試すプロトタイピングに重きを置くサービスデザインを学んでの大きな収穫。)
いったい何をデザインするのか問題
大学院で「君たちはデザイナーだ」と言われるものの、私はいったい何をデザインしているのだろう、というモヤモヤがずっとありました。
この問いについて、ようやく一つの答えが見えたのは、2年の修士課程も終わりに近づいた頃でした。
当時、卒業プロジェクトのタイムリミットが近づいているのに、最終的なサービスがいっこうにまとまらず…。
どれだけパートナーの子と議論しても、論点を図にしても、インタビューノートに立ち返ってみても、段ボールをこねくり回してプロトタイプを作っても、名案が降ってくるのを期待してシャワーを浴びても(末期)、全く前に進まず時間だけが過ぎていく状況に陥りました。
そんな停滞感を打ち破るきっかけになったのは、見かねた友人の「これ以上2人で考えてもたぶん何も出てこないよ、もう一回ユーザーに意見を聞いてみたら?」の一言。
たくさんユーザーの声を聞くプロセスを経てきたのに、結局のところ、自分たちの中から最後のピースを捻り出そうとしていたことに気がつきました。
自分自身が何かクリエイティブなものをデザインして提示するのではなく、ユーザーや関係者のクリエイティビティを刺激し、新鮮なアイデアや率直な意見を引き出す場をデザインするのが私の役割。
そう意識を切り替え、ターゲットユーザーに「こういうサービスどう思う?」と問いかける場を改めて作り、ようやく着地できたのです。
それまでにも「サービスデザイナーはカタリスト(化学反応を促す触媒)である」との表現は何度も見聞きしていて、その度に頭では理解したつもりでしたが、遅まきながらようやく腹落ちした瞬間でした。
今できること・やっていること
本帰国まで、あと1年ほどロンドンに残る予定です。
今はフリーランスのサービスデザイナー・リサーチャーとして、複数のプロジェクトに関わらせていただいています。
やや雑で思い切った分類にはなりますが、デザイン思考のプロセスとしてよく使われるダブルダイヤモンドに照らして、今できること・やっていることを大きく3つ(定性・定量調査/アイディエーション/サービス戦略の検討)に分けました。
1. いろいろな定性・定量調査
これまでのキャリアでリサーチに通じる部分は多々あったものの、本格的に学んだのは大学院からで、私にとってまだまだ修行中の領域です。
今は業界や手法を絞らず、イノベーションやサービスデザインのための幅広い定性・定量調査に関わらせていただいています。
日本の企業や研究機関の方々と、イノベーションのためのリサーチを多数されているミラツクでは、客員研究員としてお世話になっています。
大手電機メーカーさんとの消費者の行動に関するアンケート調査や、分野をまたいだ文献を分析して未来社会の解像度を上げる調査、AIやロボットの活躍する社会像についての調査など、テーマもアプローチも様々。
イギリスでは、Studio intOというリサーチ会社のLocal Researcherとして、日本・イギリス市場向けのサービスのためのユーザー調査を。インタビューやオンラインダイアリーの手法を活用しています。
2. アイディエーションの場づくり
特定の課題に対する解決策を探る、アイディエーションのためのワークショップの企画やファシリテーションをやらせていただいています。
例えば…
・東京大学 DLXデザインラボ主催「2032年の未来のモビリティ」を考えるワークショップ
・グローバルなラグジュアリーブランドの従業員向けに、Well-being向上のための施策を考える社内ワークショップ
・Royal College of Artが行っているエグゼクティブ向け短期講座でのファシリテーション
前職でも学校・企業向けの教育プログラムの企画やファシリテーション等をやってきましたが、より良いサービスを生み出すためにワークショップが大きな力を発揮すると実感しています。
3. サービスやブランドの戦略検討
これまで事業の全体像を見るマクロな視点での仕事が多かった私にとって、最も馴染みのある領域です。
サービスデザインの考え方としても、サービスの全体像をマクロに捉えることがとても重要視されており、ビジネスモデル・ブランディング・広報など、サービス構築に必要な様々な「戦略」が議論に上がります。
例えば、特許庁のデザイン経営プロジェクトチームが主催するI-OPEN PROJECTでは、新規事業推進の経験やサービスデザインの知見から、事業者のビジョンを実現するための知財戦略を検討するお手伝いをしています。
また、こちらはサービスデザインなどの既存のフレームワークを応用し、ベンチャー企業で取り組んでおられる新規サービスの広報戦略の整理をオンラインで行った例。
大学院での学びを経て、関係者を巻き込む形でサービスの全体像の可視化や施策のアイデア出しをするようになりました。
今後、長い目で見てやっていきたいのは「地域の資源を活かしたサービスの創出」にこれらのアプローチを取り入れることです。
伝統産業や文化の領域でも、作り手など事業者の愛や情熱や使命感を頼りに突き進むだけではなく、もっとユーザーの声に耳を傾けたり、ユーザーや他の関係者を巻き込む場のデザインをしたりすることで、より良いサービスや体験が生まれるのを後押ししたいと思っています。
もう少し先を見据えて
これから1年ほどを経て日本に帰国した後に、海外と日本・研究と実践の行き来を続けるにはどうすれば良いか模索しています。
海外の研究プロジェクトへの参画
2022年9月から「経験経済(Experience Economy)」の研究の第一人者のJoe Pine氏が率いるリサーチプロジェクトに参画しています。
ユーザーの価値観やライフスタイルに変化をもたらす「変容的な体験(Transformative Experiences)」をテーマに、10社ほどの企業が問いを持ち寄り共同でリサーチする、約9ヶ月間のプロジェクトです。
私は「地域の資源を活用した体験」に携わる立場でツーリズム業界の方々とチームを組んでいます。
実は"Experience Economy"は、修士の2年の間に論文やプレゼンで何度も引用してきた本で、まさか著者の方と議論を深めていく未来があるなんて1ミリも想像しておらず、、!
以前に、下記の記事でも触れていました。
留学当初はフロントランナーの方々から学ぼうという姿勢でしたが、この分野の議論の発展に貢献するという別次元のステージで何ができるのか、圧倒的な力不足を感じつつがんばっているところです。
アートのアプローチを試す
これまで取り組んできた「地域の資源を活用した、消費者のモノとの付き合い方を変えるような(Transformativeな)体験」について、アートプロジェクトとして形にできる可能性がないか試みています。
第一弾として、12月に大阪でささやかなワークショップと展示「モノとモノガタリ展」を実施しました。
70-90代の参加者11名に、身のまわりの日用品にまつわる思い出を語るためのちぎり絵を作ってもらい、モノをたんなるモノとしてではなく、モノガタリのためのメディアとして活用することを目指したものです。
私が通っていたのは、Royal College of Artの中でもアートではなくデザインのコースだったのですが、課外活動などを通して色々なアートの形に触れる機会がありました。
それがなければ、自分でやってみようという考えには至らなかったと思います。
どんな体験が人のモノへのまなざしを変えるきっかけになり得るのか、より柔軟な発想でいろんな方法に挑戦するために、日英のアートプロジェクト向けの助成への応募を検討中です。
グローバルなコミュニティで学び合う
共通の関心を持つ人たちが集まるオンラインコミュニティに登録して、色んな国の人たちと学び合いを続けられる環境に身を置けるよう努めています。
無料で敷居の低いもの・有料で審査があるものなど様々ですが、今のところ所属しているのは下記のようなコミュニティです。(他に有益なものがあればぜひ教えてください!)
・World Experience Organization
・The Transformational Travel Council
・Speculative Futures (London Chapter)
・The Service Design Network
・Fuel RCA Social Practice Group(RCAの在学生・卒業生向けのソーシャリーエンゲージドアートをテーマにしたサークル)
オンラインでの勉強会を定期的に開催しているところや、コロナが落ち着いた最近では対面でのオフ会企画も。
中でも私が好きなのが、エクスペリエンスデザインの実践者が300名ほど集まるWorld Experience Organization(WXO)で毎週のように開催されるオンラインでの勉強会。
多様なバックグラウンドの参加者が集まる中で、活発な議論ができるよう丁寧にファシリテーションされていて、心理的安全性の高い場の作り方という視点でも学びが多いです。
おわりに & 連絡先
一つひとつの取り組みはバラバラに見えるかもしれませんが、デザインでもビジネスでもリサーチでもアートでも、私にとって切り口は何でも良く。
身の回りのモノの背景にある文化やものづくりに目を向ける人が増え、いろんな地域の豊かな文化が残っていくように、亀のような歩みではありますが2023年も少しずつ前進できたらと思います。
同じテーマについて模索されている方や、何かご一緒できる可能性がある方がいらしたら、TwitterやFacebookへお気軽にご連絡ください。
本年もどうぞよろしくお願いいたします!