自己満足が誰かの役に立つと幸せのループが生まれる。
帰宅途中、駅の窓口にブロンドの外国人女性が並んでいるのを見た。日本語が通じないようで、駅員のおじさんが「あのね、これはJRだからここじゃなくてあっち。むこうでこの切符をキャンセルして…」とかなんとか説明しているのをぽかんとして聞いている。
こういうのを何度も、何度も見てきた。そして、自分にできる限り意思疎通を手伝ってきたと思う。
日本くらいの経済規模で都会の駅員に英語が通じないというのは、海外の人からしたらまだまだありえない話らしい。この駅の改札を通らないと家に帰れないので、毎週毎月こういう風景をどこかで目にするわけだが、やっぱりちょっと観光客に同情してしまう。簡単に通訳のできる人を一人置くだけでも外から来た人に対して思いやりがあると思うからだ。
そういうわけで、今回もちょっと声をかけてみた。「大丈夫ですか?」
話を聞くと、女性はどうやら必要のないJRの切符を間違えて買ったせいでICカードにチャージするお金がなくなり、本来出るべき線の改札を出られなくなってしまったようだ。
駅員さんにその旨を説明して、駅員さんのいうことを彼女に伝える。駅員さんは、JRの窓口に行って切符を払い戻したら出られるという。女性は、改札の外で子どもを2人待たせており、とにかく今すぐにこの改札を出たいという(子供は残高が足りたため先に脱出済み)。
改札に目をやると、たしかに園児とティーンくらいの年齢のブロンドの女の子2人が母の様子を外からうかがっている。
ICカードの不足金額は80円。女性は現金がないことと子どもを待たせている不安でパニックで「別の窓口で切符を払い戻し、そのお金でICカードの不足額を補う」という流れを実行する余裕がなく、泣きそうだった。
私はこの女性にとにかく同情してしまった。そして80円払うんでいいです、出してあげてくださいと言った。
駅員さんはちょっと驚いて、いいんですか?と言った。私はうなずいて、女性に何も払わずこのまま出たらいいことを伝える。
彼女はぽかんとして、恐る恐るthank you.. とだけ言った。そのまま改札を出て急いで子どものほうへ向かうのと同時に、私は私で自分の電車が来る直前だったのですぐにその場を去った。
誰かを助けるというのは、エゴなんだろうか。
そんなことを一瞬考えた。
この1件で私が得た目に見える利益はない。むしろなんの関係もない通りすがりの人のために80円損しているわけで、一部の人には一体何をやっているんだと馬鹿にされるかもしれない。
でも不思議なことに、綺麗ごと抜きで得をした気分になった。自分がすきな自分になれた気がしたからだ。私が尊敬できたり、素敵だなぁと思えたりする人ならこの場でどうするか考えたとき、たぶん同じことをしただろうなと思った。なりたい自分になるチャンスをいただいたということは、私にとってプラスなのだ。つまり、完全な自己満足である。
結果的に彼女はたぶん助かったと思うし、自分のために誰かを助ける、というセオリーはどんなビジネスにも当てはまると思うから悪いことはしていないと思う。自分と自分の家族のために金を稼ぎたくて、そのために誰かを助ける。たしかにそれで世界は回っているのだけど。それでも「自己満足」という言葉にネガティブなイメージしか持ったことがなかったので、ちょっと不安になった。
試しにエゴや偽善との違いを調べると、その差は歴然としていた。
「自己満足とは、自分自身の言動に満足すること。エゴとは、他人の迷惑を考えず自分の利益のみ追求すること。偽善とは、本心からではなくうわべだけつくろってする善行。」
私の行動の動機は「ものすごく同情したこと」なので、たぶんうわべをつくろってはいない。助けてもらった彼女は迷惑そうにはしていなかったので、たぶんエゴでもない。やっぱり、ただの自己満足だ。結果的に彼女は助かり、私は自分に満足してハッピーになったという、それだけのことだと思った。
ここで少し驚いたのが、「自己満足」というワードの定義にネガティブ要素はほぼ皆無という事実だ。
自分自身の言動に満足すること、自分自身の言動に満足すること…。何度唱えても、やっぱりネガティブな意味は出てこない。むしろいいことなのでは?とも思える。
世間一般に、「自己満だろ」と誰かが言うとき、それは批判であることが多いと思う。アーティストが作品を褒められて、「いえいえ、自己満足です」と言うとき、そのアーティストは謙遜しているように見えるだろう。
でもこの1件で、自己満足とは見返りを求めないで幸せを自家発電できるめちゃくちゃポジティブな概念なんじゃないだろうか、と感じたのだ。それで誰かが幸せになるなら…それって幸せループのはじまりなのでは?とも。
そんな話を現実で誰かにしたくても、ちょっと躊躇してしまう自分がいて、ここに書いてみた。英語にしろ、自己開示にしろ、物事を進ませるのには時間がかかる。
まずはここに備忘録として公開できたことに、心から自己満足している。