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ブルッフが語る、《スコットランド幻想曲》
Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
この番組では、毎回異なる音楽家がパーソナリティーを務め、
自身のお気に入りの曲と、その曲にまつわるエピソードを語っていきます。
今日の担当は、作曲家のマックス・ブルッフさんです。
(お話は史実に基づき構成しています。)
こんにちは、マックス・ブルッフです。
今はベルリンに住んで各地で活動しています。
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今日は、僕が最近作曲した《スコットランド幻想曲》という作品を紹介するよ。
この作品は3年ほど前に出会って、
音の美しさ、正確さと柔軟さ、見たこともないくらいのテクニックに
度肝を抜かれちゃったヴァイオリニストのサラサーテのために書いた作品なんだ。
ヴァイオリンは僕が最も愛する楽器。
だってヴァイオリンは音楽の魂であるメロディを
どの楽器よりも美しく歌うことができるでしょ。
だから、この楽器のために作品を書くのは心が躍るんだよ。
この曲と同時に、どうしてもと頼まれてチェロの作品を作曲していたんだけれど、
そちらはどうも筆が進まなくて・・・笑
《スコットランド幻想曲》は、ヴァイオリニストの友人のヨアヒムが
丁寧で緻密なアドヴァイスをくれて、
あ、彼も一流のヴァイオリニストなんだけれどね。
楽器の効果を素晴らしく発揮できる作品になったんだ。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/172248797/picture_pc_763e81693c69123133648e870446a8d6.gif)
曲名通り、この作品は、スコットランドにインスピレーションを得たものなんだけれど、
実は、僕、スコットランドには行ったことがないんだ。
でも、その場所に行かずに書かれた名曲って、たくさんあるでしょ。
ほら、オペラ《カルメン》もスペインが舞台だけど、
作曲したビゼーはスペインに行ったこともなかったて言うし。
歌詞もフランス語だしね。
でも、異国情緒あふれる作品で、魅力的だよね。
出版社も、異国ものとか、民謡編曲は人気が高くて売れるから、
書けってうるさいんだよね。
とにかく、この手の作品で重要なのは想像力!
僕の場合、その想像の源は2つあるんだ。
1つはもちろん音楽。
民謡とか特有の音階やリズム、楽器なんかを使って
その土地の香りを音で醸すんだよ。
今回僕はスコットランドの歌集『スコットランド音楽博物館』に掲載されていた
民謡旋律を何曲か使ったよ。
結構、有名なものもあってね。
最後の楽章に使った「Scots wha hae(スコットランドの民よ)」の歌は、
スコットランドの名詩人バーンズの詩で特に知られているよね。
本来はゆっくりの曲なんだけれど、
僕はテンポをかなり早くして、
曲の最後に盛大な華やかさを添えたんだ。
そして、もう1つの想像の源。それは、文学だよ。
今回は、スコットランドの大作家ウォルター・スコットの作品を読んで
曲のインスピレーションを膨らませたんだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1738206767-n58jToFK06HrMBsLhPeSIqgY.png)
とくに、彼の処女作『最後の吟遊詩人の歌』!
若きバイロンとか、英国王ジョージ4世とか、
スコットランドの名だたる著名人たちが
こぞって愛読書に挙げてるってだけあって、
音楽にしたくなる絵画のように美しい場面が、
満載の詩なんだ。
『最後の吟遊詩人の歌』の
名宰相ピットも愛読したっていう序の部分
竪琴の弦の間を彼の指はさまよい、
そして、不安げな楽音が響いたー
そして、幾度となく、彼は白髪頭を横に振った。
しかし、かの荒々しい調べを思い起した時、
老人は顔をあげ、微笑みをうかべた。
そして、彼の衰えかけた眼は
まさに詩人の興奮で輝やきわたった!
弱く、あるいは強く、響きを変化させながら、
彼は次々に和音を変えて弾き続けた。
眼の前の光景、未来の運命、彼の苦しい生活、
彼の貧窮、それらはすべて忘れられてしまった。
冷めたい不安感、老令ゆえの活気なさ、
これらも奔ばしりでる歌の流れの中に消えてしまった。
頼みにならない記憶力が残した空白は、
詩人の燃える思いが、これを満した。
そして、竪琴の高鳴る響きに合わせて、
「最後の吟遊詩人」は次のように歌った。
ここは、僕もかなり惹きつけられてね。
この流浪の竪琴弾きの老吟遊詩人の世界を
《スコットランド幻想曲》の中に反映したんだ。
竪琴を想起させるように、
ハープに重要な役割を与えたのもそのためだよ。
ということで、僕の《スコットランド幻想曲》をお聴きください。
ヒラリー・ハーンのヴァイオリン、アンドレス・オロスコ=エストラーダ指揮、
hr交響楽団(フランクフルト放送交響楽団)の演奏です。
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