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パスタが語る、ベッリーニのオペラ《ノルマ》

Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
この番組では、毎回異なる音楽家がパーソナリティーを務め、
自身のお気に入りの曲と、その曲にまつわるエピソードを語っていきます。
今日の担当は、オペラ歌手のジュディッタ・パスタさんです。

(お話は史実に基づき構成しています)


こんにちは、イタリア出身のオペラ歌手、ジュディッタ・パスタです。
今はオペラのステージからは引退して、
時々コンサートで歌ったり、声楽を指導したりしています。
今日は、作曲家のベッリーニ先生が、
私のために書いてくれたオペラ《ノルマ》をご紹介したいと思います。

ジュディッタ・パスタ(1797−1865)

私の声は、いろいろなキャクターを備えていると思いますが、
特徴的なことの一つは、声域が広いことかしら。
ソプラノのコロラトゥーラから、
コントラアルトの音域まで無理なく歌うことができます。
スフォガート(限界のない音域を持つ)というソプラノになるかしら。
コロラトゥーラとコントラアルトってあまりに対象的だから
普通は信じられないと思いますが、
例えば、ベッリーニ先生が私の声のために書いてくださった作品
《夢遊病の女》《ノルマ》を聴いてくだされば、
少しご理解いただけるのではと思います。
《夢遊病の女》と《ノルマ》の前には、ドニゼッティ先生が私のために
《アンナ・ボレーナ》という作品を書いてくださっています。

ドニゼッティ作曲のオペラ《アンナ・ボレーナ》を歌うパスタ
マリア・カラスと並び語られることもある伝説の歌手パスタ。
多くの作曲家が彼女の声に充てた役を書いた。

ベッリーニ先生の作品を歌うことが決まったのは、1829年のこと。
ミラノの劇場からのオファーだったのですが、
当初は、新作を今話題の若手作曲家ベッリーニ先生が書くっていうことだけ
を聞いていました。
それで翌年の夏、ベッリーニ先生の休暇先で、
台本作家のロマーニ先生と私と3人で綿密な打ち合わせをして、
かなり速筆で仕上げられたのがオペラ《夢遊病の女》です。
1831年にミラノのカルカーノ劇場で初演され大成功を収めました。
私のコロラトゥーラを存分に活かしてくださった
美しく劇的な作品です。

オペラ《夢遊病の女》のタイトル・ロール、アミーナを歌うパスタ
ヴィンツェンツォ・ベッリーニ(1801−35)

このオペラ《夢遊病の女》が大成功だったのを受けて、
なんと、あのスカラ座が、私とベッリーニ先生、作家のロマーニ先生に
新作をオファーしてきたのです。
それも次のシーズンの開幕を飾る作品として書いてくださいって。
私にとっては憧れのスカラ座へのデビューになります。
それで、1831年の夏からまたしても速筆で
オペラ《ノルマ》が仕上げられたのです。
今回は、なんと3ヶ月ですよ!

1831年12月26日スカラ座でのオペラ《ノルマ》初演のポスター


1831年12月26日の初演に向けて、12月5日からリハーサルが始まりました。
実はリハーサルで初めてアリア《Casta diva カスタ・ディーヴァ》を歌った時、
私は「自分の声では無理だ。このアリアは到底歌えない」と感じたのです。
そう《カスタ・ディーヴァ》
今では誰もがご存知のノルマの代名詞的なアリアです。

するとベッリーニ先生は、どうしても私にこのアリアを歌って欲しいって。
「あなたなら大丈夫。1週間だけ、どうか歌い続けてみてください」
と懇願されたのです。
それから先生の仰るように
私は《カスタ・ディーヴァ》を歌い続けました。
しばらくすると、フルートの前奏に導かれるようにノルマの祈りのアリアが、
私の声と重なっていったのです。

その後の、このオペラの成功は皆さんもよくご存知の通りでしょう。

それでは、オペラ《ノルマ》の第1幕から
ノルマのアリア《Casta diva  カスタ・ディーヴァ》をお聴きください。
演奏は、マリア・カラスです。


Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
いかがでしたか。
番組は、ほぼ日更新。名曲の、目から鱗のエピソードが語られていきます。
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夏目ムル
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