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マリア・トラットナーが語る、モーツァルトのピアノ協奏曲第15番

Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
この番組では、毎回異なる音楽家がパーソナリティーを務め、
自身のお気に入りの曲と、その曲にまつわるエピソードを語っていきます。
今日の担当は、マリア・トラットナーさんです。
(お話は史実をもとに構成しています)


こんにちは、作曲家のモーツァルト先生の弟子で、
ウィーンに暮らしておりますマリア・トラットナーです。

マリア・トラットナー(1758−93)のイメージ ©︎夏目ムル

今日は、モーツァルト先生が私たちの館で作曲して、ご披露された
ピアノ協奏曲第15番 変ロ長調 K.450をご紹介したいと思います。

突然ですが、私の夫トラットナーは、
ウィーンで出版会社を経営しております。
1752年に宮廷印刷官のお役目を仰せつかって以来、
オーストリアで必要とされるすべての学校の教科書を印刷できる
という特権を得ています。
新聞や雑誌、ゲーテやシラー、ヘルダーやレッシング等の著作、
さまざまな印刷、出版も手掛けており、
製紙工場、鉛鋳物工場、製本工場も自社で所有しております。
夫は、モーツァルト先生とは昔からの友人で、
モーツァルト先生を長く支援しております。

マリアの夫、トーマス・フォン・トラットナー(1719−98)


今日ご紹介する変ロ長調のピアノ協奏曲 は、
モーツァルト先生が、御一家で我が館、トラットナーホフという6階建のビル
に1年ほどお住まいになった際に作曲され、披露された作品です。
先生のご家族と私の家族は、本当に仲が良くて、
私たち夫婦は、先生のお子さんの代父母でもあります。
そう、昨日、リヒノフスキー伯爵がお話されていたハ短調のピアノ・ソナタK.457は、モーツァルト先生が私に献呈してくださった作品なんですよ。

トラットナーホフ、1781年


我が館は、ウィーンでも随一の大きさを誇るビルで、
モーツァルト先生のお住まいは、
4 つの部屋と 2 つの隣接する部屋からなる非常に広々としたものでした。
もちろん先生には、格安でお貸ししておりましたよ。


館の中には噴水のある 2 つの中庭や読書室、
そして専用礼拝堂兼、音楽演奏用のホールもございました。
そこで先生は夫に
我がホールで、
ご自身の新作のピアノ協奏曲を披露するコンサートを開催するという
画期的な提案をされましたの。

旧トラットナーホフ1階には有名なビールハウス「zur Tabakspfeife」があった。
旧トラットナーホフは1911年に取り壊された。


もちろん夫は大歓迎。
そこで1784年の3月から復活祭まで、毎週水曜日にコンサートが開催されることになりました。
先生は1週間おきに次々と新作を作曲され、我がホールで披露されたのです。
私にとっては、毎週先生の演奏で、新しい音楽を聴ける夢のような時間でした。
コンサートは事前予約制でしたが、
貴族や高官、裕福な商人が来場して、ウィーンでも大きな注目を集めたんですよ。


今日お聴きいただく、ピアノ協奏曲第15番 変ロ長調 K.450
その我が家で披露された作品の中でもいちばんの難曲で、
先生は「演奏家に汗をかかせる」と仰っていました。
モーツァルト先生の素晴らしいカデンツァには、私も観客も大興奮でした。

それでは、
アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリのピアノ、
エドモン・ド・シュトウツ指揮、チューリッヒ室内管弦楽団
の演奏でピアノ協奏曲第15番 をお聴きください。


Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
いかがでしたか。
番組は、ほぼ日更新。名曲の目から鱗のエピソードが語られています。
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夏目ムル
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