外国ルーツの人にきく [食べたら元気になるごはん]第2回(前半) 乃毓(ナイユー)さんの「三杯鶏(サンペイジー)」
「風邪をひいたときや、落ち込んだとき、ものすごく疲れたときに、どんな料理が食べたくなりますか?」
ライターの青野棗(あおのなつめ)です。
日本で働く外国ルーツの方々に、食べたら元気になる料理を教えてもらいながら、日本での暮らしについてインタビューするという企画に取り組んでいます。
台北生まれの台北育ち、そして現在は日本で働く詹乃毓(セン・ナイユー)さんにこの質問をしたのは、一昨年の冬のことでした。
第1回目で取材した香港出身の王如遠(ワン・ルエン)さんの紹介で、彼女と初めてお会いしたときのことです。
乃毓さんは少し考えると、「香菇鶏湯(シャングージータン)かな」、と答えてくれました。
椎茸と鶏肉のスープ。
台湾の冬の定番料理だそうです。
もうひとつ挙げてくれたのが、「麻油鶏(マーヨージー)」。
これは鶏肉と生姜をごま油で炒めてお酒で煮込んだスープで、こちらも食べると体がぽかぽかしてくるそう。
そうでした。
台湾はスープの種類が非常に豊富で、しかも「医食同源」の考え方が根づいているから、体にやさしいスープがいっぱいあるのですよね。
「他にもありますか?」ときいてみました。
たとえば仕事でもうくたくたに疲れていて、干し椎茸を戻す心の余裕や、ことこと煮込む時間の余裕もないようなとき。
帰宅途中にささっと買い物をして、ぱぱっと作って、さあ、これ食べて元気出そう!というようなものは?
「ああ、それだったら」、と乃毓さんはうなずきました。
「三杯鶏(サンペイジー)ですね」
*この記事は、2021年4月に品川区の隣町珈琲より発行された地域文芸誌『mal"02』 http://tonarimachicafe.jp/contents/BOOKS2.html
に掲載されたものに、加筆、修正しました。
乃毓(ナイユー)さんの「三杯鶏(サンペイジー)」
詹乃毓(セン・ナイユー/ Jan Naiyu)さん。
台北出身の30代。国立台湾師範大学美術史修士卒業。趣味は台湾茶と茶道。
ドラマ『孤独のグルメ』の大ファンで、路地裏にある大衆食堂のような、人情味のあるお店が好き。現在は転職し、東京から札幌へ移住。
三杯鶏の「三杯」は、しょうゆ、酒、ごま油の3つが、それぞれ同量、ということだそうです。
この3つの調味料で、鶏肉を炒め煮します。
三杯鶏を教わるために、乃毓さんが暮らす都内のシェアハウスにお邪魔しました。
2019年の12月のことで、如遠さんも一緒に来てくれました。
香港出身の如遠さんの母語は広東語ですが、乃毓さんと話すときは、中国語(共通語)で話します。
そしてふたりとも、私には日本語で話してくれます。
その日は如遠さんと乃毓さんが、ふたりで台所に立ってくれました。
乃毓さんが台湾から持ってきたという中華包丁を取り出すと、如遠さんが「よく見てて」と私をまな板の前に呼びます。
乃毓さんは、バンッ、と包丁の腹で鮮やかにひと打ち、慣れた手つきでニンニクをつぶしました。
それから手早く生姜を薄切りにします。
フライパンにごま油を入れます。
あとはもうあっという間に、食欲をそそる良いにおいがしてきました。
シェアハウスの台所に、歌のように響くふたりの楽しげな中国語と、ごま油と生姜とニンニクの香り。そして、魔法のように早くできた三杯鶏。
それらがなんだかもう、遠い昔の夢のようにさえ感じられるのは、その後の変化が大きかったからでしょう。
* * *
2017年の春に来日した乃毓さんは、日本語学校へ1年通い、その後、如遠さんと同じ東京のウェブメディアの会社に就職しました。
前半の料理の取材と撮影は、2019年の12月におこなっています。
後半のインタビューは、新型コロナの感染拡大が日本でも心配されはじめた、2020年の3月におこないました。
まずは、2019年12月の料理取材からお届けします。
以下は、乃毓さんのお話です。
* * *
「三杯鶏」の作りかた
料理は、毎日します。
気分転換になりますから。
会社の帰りに、スーパーで食材を買って帰ります。
仕事で疲れているときによく作るのが、三杯鶏です。
簡単で、すぐにできるので。
台湾では、これは居酒屋の定番メニューなんです。
私はよく、白いごはんと一緒に注文します。
台湾の母の作る料理は、薄味で、からだに良い感じのものが多いです。
でも、私はこの濃い味つけが好きで。
だからこの料理は、自分で覚えました。
三杯鶏の「三杯」は、しょうゆ、酒、ごま油の3つが、それぞれ同量、ということです。
覚えやすいでしょう?
基本はこの3つの調味料で、鶏肉を炒め煮にします。
私は甘辛いのが好きなので、いつもこれに砂糖とオイスターソースを足します。
お酒は台湾のお酒で。
これは、日本の中華食材店で買いました。
「三杯鶏(サンペイジー) 」 材料
鶏肉(できれば骨付きのもの。写真は手羽元ですが、手羽中を使うとより早く、簡単にできます)400グラムくらい
生姜ひとかけ(薄切りに)
ニンニク(2〜3粒を、つぶす)
鷹の爪(1〜3本)
バジル(ひとつかみ)
ごま油(大さじ2〜3)
しょうゆ(大さじ2〜3)
酒(台湾のお酒を使いましたが、日本酒、ワインでもいいです。大さじ2〜3)
砂糖、オイスターソース(お好みで)
ニンニクは包丁の腹でつぶし、生姜は薄切りにします。
フライパンにごま油を入れ、潰したニンニク、薄切りの生姜を入れて、弱火にかけます。
良い香りがしてきたら、鶏肉と鷹の爪を入れ、中火にします。
肉に焼き目がついたら、調味料を加えてゆきます。
しょうゆと酒は、最初に入れたごま油と同量くらい。
お好みで、砂糖、オイスターソースも加えます。
手羽元のときは、中まで火が通るまで、蓋をして少し煮てください。
(筆者注:手羽中なら火が通りやすいので、蓋もせず、そのまま炒めていればすぐにできあがります)
最後は火を強めて、タレを全体にからめるようにしながら、汁気を飛ばします。
仕上げにバジルを加えて、できあがりです。
鶏肉のかわりに、イカとか、きのことかで作ってもおいしいです。
今日は、私が自分で作ったお皿に盛りつけました。
これ、台湾のかたちのお皿なんです。
東京で、通っていた日本語学校の先生に誘われて、「陶芸体験」に参加したときのものです。
そのときに、私はこの台湾のかたちのお皿と、抹茶用のお茶碗を作りました。
バジルは、ベランダで、自分で育てています。
台湾料理には、バジルもよく使うので。
バジルの隣りに植えてあるのは、豆苗です。
スーパーで買ってきた豆苗は、使ったあと、根っこの部分だけ、こうやって土に植えておくんです。また生えてきて使えるから、便利ですよ。
* * *
後半につづきます。
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