遺書No.516 リモートコントロールする者の矜持。
※この記事は2004年7月6日から2009年7月5までの5年間毎日記録していた「遺書」の1ページを抜粋して転載したものです。
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2005.12.2
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随分寒くなりましたね、皆さん。
風邪などひかぬよう十分に注意しましょうね。
こんばんわ、みーくんです。
~客観的に自分を見つめる術は、
時として危険な事件を巻き起こす~
の巻。
・・・ある日、男は仕事から帰ると、着替えもせぬまま疲れた身体をソファに投げ出して、テレビを見ていた。
彼はテレビから垂れ流される、芸能人のプライベートな事情を取り扱った下世話なニュースに辟易し、チャンネルを変えようとしたが、リモコンが見つからなかった。
面倒臭そうに顔を顰めながら、リモコンを探して部屋の中に視線を泳がす。
そして、リモコンが彼のソファからずいぶんと離れた(彼からテレビまでの距離よりも遠い)場所に落ちている事を、発見したのである。
彼は立ち上がろうとするも、一瞬、一抹の不安が彼の脳裏をよぎる。
『・・・待てよ?
リモコンが完全にリモコン足りえるには、自分からテレビまでの距離よりも、リモコンが近くになければならないのではないか?』
つまり、テレビまで歩く方が近いのに、リモコンまでわざわざ歩きテレビをリモートコントロールするなんてあまりにも馬鹿げている。
そう、そんなんじゃまるで機械に使われている、言うなれば、逆にテレビにリモートコントロールされているみたいじゃないか…?
彼は確信する。
OK、現在の複雑な状況は明らかになった。
それでは、改めて考えよう。
テレビまで歩くのが得か?
それとも、今後のチャンネル変更の可能性も吟味した上で、今少しばかりの苦労をしてでもリモコンを取りに行くのが得策か…?
しかし彼は、そこまで考えたところで、ここまで決して気づかなかった・・・いや、むしろ気がつかない振りをしてきた【第三の方法】への思考に辿り着いてしまい、禁断の果実に手伸ばすのである。
テレビにリモートコントロールされるくらいなら、逆にリモコンの裏をかく形で、いっそリモコン自体を更にリモートコントロールできないだろうか、、?
しかしどうやって!?
どうせ殺るなら一発で確実に仕留めなければならない。
例えばリモコンの将来性も吟味して、何か柔らかいものを何度もリモコンに投げるのはスマートじゃない。
それこそ間抜けなピエロじゃないか。
では、いっそ今この手の届く場所にあるエアガン、「ボルトアクションライフル SRS A2-M2 22インチバレル 」で撃ち抜くというのはどうだろうか?
ただ、リモコンはほぼ確実に死ぬ恐れがあるが…。
・・・いや、そんなことは問題じゃない。
テレビをリモートコントロールする為のコントローラーによって自分がリモートコントロールされてしまうぐらいなら、例え最後になろうともリモートコントロールする側の誇りと矜持に則って、リモートコントローラーにその責務を果たさせテレビジョンをリモートコントロールする!それが取るべき選択ではないのか!?
そうだ、間違いない。
となれば、問題は、今、この瞬間、リモコンが逝く前にきちんとその役目を果たせるかどうか、それだけなのだ。
彼の思考はひとまずの結論を得た。
そして彼はトリガーに指をかけるが、最後の不安要素が彼を躊躇させる。
『本当に奴は逝く前にその役目を果たすのか?』
彼はひとまずエアガンを降ろして、目の前のテーブルに置いていたパソコンを開いた。
そしていつもの脳内会議、いわゆる心のシンポジウムを開催し、ベストな議決を導く為の情報収集だ。
そして、彼の脳内に住む【審議官みーくん】から、早速議題の提唱が行われた。
『事態は緊急を要する為、可及的速やかに結論を導き出したいと思う。
またその為には、可能な限りの全思考全人格の参加動員を求めるので、各思考・人格は早急に最も適していると思われる意見を提唱して頂きたい。』
事態は急を要する、、
それも嘘ではないが、これはもはや、誇りと矜持の問題だ。
『まずは今回の論点であるが、
①テレビのリモコンが遠くにあって、取りに行くのがバカバカしい。
②その解決法として提案されたのはリモコンを銃で撃つという行為である。
③たとえばリモコンを銃で撃った場合、チャンネルが変わるのが先か、リモコンが逝くのが先か、どちらが優先されるのか。
④或いはこの緊縛された状況における最も有効な選択は何なのか?』
これには【理性派みーくん】や【カオス派みーくん】、【打算派みーくん】や【リベラル派みーくん】、【エロス派みーくん】など、その他の各人格が積極的な参加があり、無事に一つの結論を導き出す事に成功した。
『若いのにリモコンを銃で撃つなんて発想は関心しないね。。まぁ、ともかくだ。理性的に考えよう。
まず、結論から言えば、現代の電化製品の反応速度は君が思っているよりも非常に速い。
しかし、残念ながら弾丸の速度に対応出来るほど速くはない、というのが現状だといえるかもしれない。
じゃあまず、弾丸の速度に関して考えてみよう。
一般的なエアガンから発射された弾丸は、秒速およそ500mのスピードで飛んでいる。
(もちろん、ガンの種類によってバラつきはあるのは分かるね)。
そして次に、リモコンの反応速度だ。
まず弾丸がボタンに触れて、リモコン内部に電気的な反応が起こるまでに、弾丸は2mm、そして内部の回路が作動するまでに弾丸はすでに4mm食い込んでいる事になる。
これらは数学的に明らかにする事が出来る。
そこでまず、弾丸が垂直にボタンを押したとしよう。
そこからリモコン内部の回路が信号を伝えて、
同時に弾丸によって回路の基板がダメージを受けるまでの時間は0.000008秒(0.004/500)だ。
つまり8マイクロセカンド。
そう、確かに現在の優れたマイクロプロセッサならば、この僅かな時間だけで数百の演算を行う事が出来るのは事実だ。
しかし、そこで君は重要な事実を忘れている事に気がつくだろう。
弾丸を喰らったリモコンはその内部回路が破壊されるまでの間に、情報をテレビに送る為の赤外線信号を内部で生成し、トランスミッタから送信しなければいけない訳だ。
現在リモコンで頻繁に使われているPhilips/Sony RC5の装置は、信号送信を完了するまでに凡そ25マイクロセカンドを要する。
つまり、内部のトランスミッタが信号を送信する前に、リモコンは弾丸によって破壊され、君は足元に落ちる薬莢の煙と共に、その退屈な下世話なワイドショーを見続けなければいけない訳だ。』
・・・答えは出た。
しゃーねぇ、超だるいけどリモコンを取るか…。
ボクは意を決してソファから立ち上がった。
・・・ま、気にするなょ。戯言だ。
そいうえば、TVが「テレ・ヴィジョン」という名前である事、すなわち、遠隔のものを目に見えるようにする道具であり、いわば「魔法の鏡」であった事は子供でも知っているだろう。
だが、それは本当は「視覚を遠隔操縦する」事でもあったのだ。
いまや、視覚ばかりでなく、俺達の感覚、実感の全てが、この操作的平面のただ中を駆け回っているといえるけどね。
ところで、リモコンを握っているのは一体誰か?
それはメディア自身に媒介された、無方向で無動機の欲動というしかあるまい。
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2021.12.5
毎日遺書を書き始めた当時516日目の投稿内容。
あの頃まではよく妄想の世界を徘徊する時間を楽しんでたな。。
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