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位相空間論入門(2)-写像の復習

前回は集合の基本的な部分について復習しました.今回は写像について軽く復習します.

写像

写像とは2つの集合の間の元の対応づけのことです.高校まで扱ってきた関数は写像の一種です.

集合$${X}$$の全ての元に対して,集合$${Y}$$の元がそれぞれ1つずつ対応させられているとします.この対応のさせ方を写像といい,写像を$${f}$$とすると$${f \colon X \rightarrow Y}$$と書きます.このとき集合$${X}$$を写像$${f}$$の定義域といい,集合$${Y}$$を終域といいます.写像$${f}$$によって定義域の元$${x \in X}$$に対して終域の元$${y \in Y}$$が対応させられているとき,$${f(x) = y}$$や$${x \mapsto y}$$と書き,$${f}$$は$${x}$$を$${y}$$に写すなどと表現されます.

ここで大事なのは定義域の全ての元に対して終域の対応先が定まっていることと,その対応先は必ず1つだけであることです.また写像は定義域と終域とセットで定義されますのでそこも注意してください.もう少し厳密には写像は集合の直積を用いて定義されますが,それは割愛します.

例えば,関数$${f(x) = x^2}$$は定義域と終域が共に$${\R}$$の写像で,$${1 \mapsto 1, 2 \mapsto 4, 3 \mapsto 9}$$のような対応付けがされています.

ここでは写像の例として関数だけを紹介しますので,写像を初めて知った方は関数との違いがよくわからないかもしれません.先にも述べた通り写像は関数よりも広い概念です.写像はなんでも良い一般の2つの集合に対して定義することができ,特に定義域と終域が$${\R}$$や$${\mathbb{C}}$$である写像を関数と呼ぶことが多いです.
ただし,教科書や文献によってはそうではないものに対しても関数と呼んでいる場合もあるのではっきりとした区別はあまりなされていないようです.

写像の合成

$${X, Y, Z}$$を集合とし,$${f \colon X \to Y, g \colon Y \to Z}$$を写像とします.写像$${h \colon X \to Z}$$を$${h(x) = g(f(x))}$$で定めます.すなわち,$${x}$$を$${f}$$で写したものをさらに$${g}$$で写したものを$${h(x)}$$とするわけです.このようにして得られる写像$${h}$$を$${f}$$と$${g}$$の合成写像といい,通常$${g \circ f}$$と表記されます.

全射と単射

写像が持つ重要な属性として全射性と呼ばれるものと単射性と呼ばれるものがあります.

写像$${f \colon X \to Y}$$は,終域の任意の元$${y \in Y}$$に対して$${f(x) = y}$$となるような定義域の元$${x \in X}$$が存在するとき全射であると言います.

写像$${f \colon X \to Y}$$は,定義域の任意の元$${x_1, x_2 \in X}$$に対して$${f(x_1) = f(x_2)}$$ならば$${x_1 = x_2}$$が成り立つとき,単射であると言います.

単射の定義は対偶をとって,$${x_1 \neq x_2}$$ならば$${f(x_1) \neq f(x_2)}$$ということもできます.

例えば写像$${f \colon \R \to \R, f(x) = x}$$は全射でもあり単射でもあります.この写像は恒等写像と呼ばれます.また写像$${f \colon \R \to \R, f(x) = x^2}$$は単射でも全射でもありません.実際に$${f(x) = -1}$$となる$${x \in \R}$$が存在しないことから全射でないことがわかり,$${f(-1) = f(1)}$$であることから単射でないことがわかります.
他の例としては,写像$${f \colon \R \to \R, f(x) = 2^x}$$は単射ですが全射ではありません.写像$${f \colon \R \to \R, f(x) = x^3 - 3x}$$は全射ですが単射ではありません.

全単射と逆写像

写像$${f \colon X \to Y}$$は全射でもあり単射でもあるとき,全単射であると言われます.これは定義域$${X}$$の全ての元と終域$${Y}$$の全ての元が1対1に対応しているということを意味しています.

逆写像を定義する前に恒等写像についてもう少ししっかりと定義しておきます.集合$${X}$$上の恒等写像とは写像$${f : X \to X}$$で全ての$${x}$$に対して$${f(x) = x}$$で定義される写像です.すなわち,ある集合からその集合自身への写像で,全ての元をそれと同じ元に写す写像です.$${X}$$上の恒等写像は$${\mathrm{id}_X}$$や単に$${\mathrm{id}}$$と書かれることが多いです.

では逆写像を定義しましょう.

写像$${g \colon Y \to X}$$が写像$${f \colon X \to Y}$$の逆写像であるとは$${g \circ f = \mathrm{id}_X}$$かつ$${f \circ g = \mathrm{id}_Y}$$を満たすことを言います.
もう少し別の言い方をすれば,$${f}$$で写したものを$${g}$$で写すと元に戻り,$${g}$$で写したものを$${f}$$で写すと元に戻るということです.

実は全単射である時に限って逆写像が存在し,逆写像が存在するということは全単射であるということがいえます.(つまり,全単射であることと逆写像が存在することは同値です.)

写像$${f \colon X \to Y}$$が全単射ならば,終域の任意の元$${y \in Y}$$に対して$${f(x) = y}$$となる定義域の元$${x \in X}$$が必ずただ一つ存在します.そこでそれぞれの$${y \in Y}$$に対して$${f(x) = y}$$となる$${x \in X}$$を対応させる写像を$${g : Y \to X}$$とすると,これが$${f}$$の逆写像です.

ある写像に対して逆写像が存在するとき,逆写像は上の構成で得られる写像しかありません.すなわち逆写像は存在するならただ1つしかありません.
そこで写像$${f}$$が全単射であるとき,$${f}$$の逆写像を$${f^{-1}}$$と書きます.

像と逆像

写像の像や逆像には写像や逆写像の記号と同じ記号を用いるので,注意してください.特に逆写像と逆像を混同してしまう場合が多いようです.

$${f \colon X \to Y}$$を写像とします.$${A \subset X}$$に対して$${f}$$による$${A}$$のとは次のように定義された$${Y}$$の部分集合$${f(A)}$$のことを言います.

$$
f(A) = \{f(x) \in Y \mid x \in A\}
$$

すなわち,$${A}$$の全ての元を$${f}$$によって写すことで得られる集合ということです.

次に逆像についてです.$${B \in Y}$$に対して$${f}$$による$${B}$$の逆像とは次のように定義された$${X}$$の部分集合$$f^{-1}(A)$$のことを言います.

$$
f^{-1}(A) = \{x \in X \mid f(x) \in B\}
$$

すなわち,$${X}$$の元のうち,$${f}$$によって$${B}$$に写されるものを集めた集合ということです.

これらの表現を用いると写像 $${f \colon X \to Y}$$ が全射であるとは,$${f(X) = Y}$$となることであり,写像$${f \colon X \to Y}$$が単射であるとは,任意の$${y \in Y}$$に対して$${f^{-1}(\{y\})}$$の元の数が0個または1個となることであると言い換えることもできます.

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