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位相空間論入門(3)-距離空間の復習

概要

位相空間とは開集合が定義された空間であり,位相があると連続写像を定義することができます.連続写像は連続関数を一般化したものと捉えることができます.

位相空間の定義に入る前に距離空間について復習することにしましょう.第一回,第二回と同様に特に大事だと思われる概念や命題を抜粋して書き留めておきます.命題に関しては証明は省略します.次回の位相空間からはちゃんと証明も書いていきます.

関数$${f \colon \R \to \R}$$が連続であるとは,任意の点$${a \in \R}$$に対して$${\displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = f(a)}$$が成り立つことでした.極限を考えるには距離が定義されている必要があります.距離が定義された空間を距離空間と言います.距離空間であれば$${\R}$$のときと同じように極限を用いて関数が連続であることを定義することができます.

距離空間の定義

まずは集合に対して距離を定義しましょう.

定義3.1
集合$${X}$$上の距離関数とは次の3つの条件を満たす写像$${d \colon X \times X \to [0, \infty)}$$のことである.
(i) 任意の$${x, y \in X}$$に対して,$${d(x, y) = 0}$$であることと$${x = y}$$であることは同値である.
(ii) 任意の$${x, y \in X}$$に対して,$${d(x, y) = d(y, x)}$$である.
(iii) 任意の$${x, y, z \in X}$$に対して,$${d(x, y) + d(y, z) \leq d(x, z)}$$である.

定義3.2
集合$${X}$$とその上の距離$${d}$$があるとき,組$${(X, d)}$$を距離空間という.または単に$${X}$$を距離空間ということもある.

最も馴染み深い距離空間の例は$${\R^2}$$上の距離関数

$$
d(a, b) = \sqrt{(a_1-b_1)^2 + (a_2-b_2)^2}
$$

ですね.ただしここで$${a = (a_1,a_2), b=(b_1, b_2)}$$としています.これはユークリッド距離と呼ばれます.実は$${\R^2}$$上にユークリッド距離以外の距離を考えることもできます.例えば

$$
d(a, b) = |a_1 - b_1| + |a_2 - b_2|
$$

とするとこれは距離関数の定義を満たすことがわかります.この距離のことをマンハッタン距離と言います.

内部,外部,境界,閉包

ここでは距離空間の部分集合に対して,内部,外部,境界,閉包を定義します.

$${(X, d)}$$を距離空間とします.距離空間$${X}$$上の,中心$${a \in X}$$,半径$${\varepsilon > 0}$$の開球$${B(a, \varepsilon)}$$とは$${B(a, \varepsilon) = \{x \in X \mid d(a, x) < \varepsilon\}}$$のことです.これを用いて内部を定義します.

定義3.3
$${A}$$を$${X}$$の部分集合とする.$${a \in A}$$は$${B(a,\varepsilon) \subset A}$$となる$${\varepsilon > 0}$$が存在するとき$${A}$$の内点と言う.$${A}$$の内点全ての集合を$${A}$$の内部と言い,$${A^\circ}$$や$${\mathrm{Int}A}$$と表す.

定義3.4
$${A}$$を$${X}$$の部分集合とする.$${A}$$の補集合の内部を$${A}$$の外部と言い,$${A^e}$$や$${\mathrm{ext}A}$$と表す.すなわち$${A^e = (A^c)^\circ}$$である.

定義3.5
$${A}$$を$${X}$$の部分集合とする.$${X}$$の点のうち,$${A}$$の内部にも外部にも属さない点の集合を$${A}$$の境界と言い,$${\partial A}$$と表す.すなわち$${\partial A = X - (A^\circ \cup A^e)}$$である.

内部,外部,境界のイメージは次の図のような感じです.

内部,外部,境界のイメージ図

定義3.6
$${A}$$を$${X}$$の部分集合とする.$${A}$$の内部と境界の和集合を閉包といい,$${\overline{A}}$$や$${\mathrm{cl}A}$$と表す.すなわち$${\mathrm{cl}A = A^\circ \cup \partial A}$$である.

開集合,閉集合

そして位相空間の説明につながる,開集合と閉集合を定義しておきます.

定義3.7
$${A}$$を$${X}$$の部分集合とする.$${A^\circ = A}$$となるとき,$${A}$$を開集合という.

定義3.8
$${A}$$を$${X}$$の部分集合とする.$${\mathrm{cl}A = A}$$となるとき,$${A}$$を閉集合という.

ここで全体集合$${X}$$や空集合$${\emptyset}$$は開集合でも空集合でもあることに注意しましょう.また,開集合でも閉集合でもない集合も存在することにも注意しましょう.

イメージとしては完全に縁のない集合が開集合で,完全に縁のある集合が閉集合だと思えると思います.

$${\R}$$にユークリッド距離を入れて考えると,開区間$${(a,b)}$$は開集合で閉区間$${[a,b]}$$は閉集合になります.半開区間$${(a,b]}$$などは開集合でも閉集合でもありません.

そして開集合と閉集合には次の関係があります.

命題3.9
開集合の補集合は閉集合であり,閉集合の補集合は開集合である.

次に述べる命題は位相空間の定義になるもので重要です.

命題3.10
$${(X, d)}$$を距離空間とし,$${O(X)}$$を$${X}$$の開集合全てからなる集合とする (すなわち$${O(X)}$$は集合を要素にもつ集合).このとき次が成り立つ.
(i) $${X, \emptyset \in O(X)}$$である.
(ii) $${n}$$を正の整数とする.$${U_1, \cdots, U_n \in O(X)}$$ならば$${\displaystyle\bigcap_{i=1}^n U_i \in O(X)}$$である.
(iii) $${\{U_{\lambda}\}_{\lambda \in \Lambda}}$$を$${O(X)}$$の元からなる集合族とする.ここで添字集合$${\Lambda}$$の元の個数(濃度)は任意である.すなわち有限個でも無限個(可算濃度でも連続濃度でもそれ以上)でも良い.このとき$${\displaystyle\bigcup_{\lambda \in \Lambda}U_{\lambda} \in O(X)}$$である.

この命題3.10はすなわち有限個の開集合の共通部分はまた開集合であり,任意個の開集合の和集合はまた開集合であることを意味しています.

無限個の開集合の共通部分は開集合であるとは限りません.実際,$${\R}$$において次の例が反例になります.

$$
\bigcap_{n=1}^{\infty} \left(0, 1 + \frac{1}{n}\right) = \left(0, 1\right]
$$

連続関数

最後に位相空間で重要な役割を果たす連続関数について説明します.
距離空間と距離空間の間の連続関数は,$${\R}$$と$${\R}$$の間の連続関数の定義からほぼそのまま定義することができます.

定義3.11
$${(X, d_X), (Y, d_Y)}$$を距離空間とする.$${f \colon X \to Y}$$が点$${x_0 \in X}$$において連続であるとは,任意の$${\varepsilon > 0}$$に対して$${\delta > 0}$$が存在して,任意の$${x \in X}$$に対して$${d_X(x_0, x) < \delta}$$ならば$${d_Y(f(x_0), f(x)) < \varepsilon}$$が成り立つことである.$${f}$$は$${X}$$の任意の点において連続であるとき連続関数と呼ばれる.

定義3.11において$${X = Y = \R}$$として,距離をユークリッド距離(またはマンハッタン距離でも同じ)で考えると,$${\R}$$から$${\R}$$への連続関数の定義に一致します.

次に述べる命題は位相空間における連続関数の定義になる重要なものです.

命題3.12
$${(X, d_X), (Y, d_Y)}$$を距離空間とする.$${f \colon X \to Y}$$が連続関数であるための必要十分条件は,$${Y}$$任意の開集合$${V}$$に対して逆像$${f^{-1}(V)}$$が$${X}$$の開集合となることである.

この命題はいまいち実感が湧かないような気がしますが,グラフを書いて考えてみるとなんとなく意味がわかるのではないかと思います.下の図を参考にしてください.

命題3.12のイメージ図


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