位相空間論入門(4)-位相空間の定義
さて今回からついに位相空間に入ります.
位相空間の定義
まず位相空間を定義しましょう.
上の定義を言葉で言い換えると,空集合と全体集合を含んでいて,有限個の元の共通部分もまた含まれていて,任意個の元の和集合もまた含まれているような部分集合の族が位相ということです.
この定義の3条件は命題3.10から来ています.命題3.10では距離空間の中の開集合が満たす性質として3条件を提示しました.そこで,ここでは逆にこの3条件を満たすような部分集合族を考えて,その元を開集合と呼ぶことにしようということです.そして集合に対して開集合を定めたものを位相空間というわけです.命題3.10に関しては下の記事を確認してください.
念のためですが,位相は集合に対して一意的には定まりません.つまり,同じ集合に対して考えられる位相の種類は(1元集合以外は)いくつもあります.考える位相が異なれば位相空間としては異なったものになります.
位相空間の例
それでは位相空間の例をいくつか見ていきましょう.
位相空間の例(3元集合の位相)
3元集合$${X = \{a, b, c\}}$$に対して次のような位相を考えることができます.
$$
O(X) = \{\emptyset, \{a\}, \{a,b\}, \{a, c\}, \{a, b, c\}\}
$$
これが位相になっていることは次のように確認できます.
まず明らかに(i)の条件を満たします.次に(ii),(iii)の条件ですが,それぞれ32通りずつの組み合わせがあるので一部だけ書くことすると
$$
\{a\} \cup \{a, b\} = \{a, b\} \in O(X)\\
\{a\} \cup \{a, c\} = \{a, c\} \in O(X)\\
\{a, b\} \cup \{a, c\} = \{a, b, c\} \in O(X)\\
\{a, b\} \cup \{a, b, c\} = \{a, b, c\} \in O(X)\\
\vdots\\
\\
\{a\} \cap \{a, b\} = \{a\} \in O(X)\\
\{a\} \cap \{a, c\} = \{a\} \in O(X)\\
\{a, b\} \cap \{a, c\} = \{a\} \in O(X)\\
\{a, b\} \cap \{a, b, c\} = \{a, b\} \in O(X)\\
\vdots
$$
などの計算により,確かに条件を満たしていることが確認できます.
この位相は次のようなイメージです.
位相空間の例(密着位相)
空でない集合$${X}$$に対して位相$${O(X) = \{\emptyset, X\}}$$を考えます.これが位相になっていることはすぐに確認できます.実際
$$
\emptyset, X \in O(X)\\
\emptyset \cup X = X \in O(X)\\
\emptyset \cap X = \emptyset \in O(X)
$$
となることからわかります.位相が空集合と全体集合を含むことは定義なのでこれより要素の少ない位相を考えることはできません.すなわちこの位相は考えられる位相の中で要素数が最小の位相です.この位相は密着位相と呼ばれます.
位相空間の例(離散位相)
空でない集合$${X}$$に対して位相$${O(X) = 2^X}$$を考えます.ここで$${2^X}$$は集合$${X}$$の全ての部分集合を集めた集合です.これが位相になっていることはすぐに確認できます.実際,空集合と全体集合を含んでいて,部分集合の和集合や共通部分はまた部分集合になるのでこの$${O(X)}$$は位相の定義を満たします.
位相は部分集合の族として定義されているので,部分集合全部を集めたこの位相よりも要素数の多い位相を考えることはできません.すなわちこの位相は考えられる位相の中で要素数(濃度)が最大の位相です.この位相は離散位相と呼ばれます.
位相空間の例(距離位相)
$${(X, d)}$$を距離空間とします.位相$${O(X)}$$を(距離空間としての)開集合全てを集めた集合とします.これが位相になっていることは命題3.10から直ちに従います.
すなわち距離空間は自然に位相空間になるということです.この位相を距離位相といいます.