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【悪性リンパ腫・闘病記⑭】青ク深イヨル

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深夜2時、目を覚ました。抗がん剤の副作用の影響か、眠りが浅く、一度起きたらなかなか寝られないらしい。仕方がないので、YouTubeを開いて怖い話やサイコパス事件の解説動画を見始めた。最近までは犬の動画を見ていたけど、きっと自分が身を置く環境とのバランスをとっているのだろう。ダッチロールみたいに不安定な心電図。まばらに光る夜景を横目に、やっぱり自分は病気で、入院をしている事実を確かめるように…。

深夜3時、天井を見つめている。抗がん剤の副作用の影響か、どうしても眠れないみたいだ。動画を見るのはもう飽きて、アイマスクをして何度も眠ることを試みた。しかし、4人部屋の病室は他の患者のいびきはもちろん、心電図の乱れや点滴が切れたとき、うるさくアラームが鳴り響く。まるで互いが互いの人生を求め、奪い合うように、睡眠を邪魔し合う。消音のボタンを押せばアラームの音を一時的に切れるのだが、入院したての患者は切り方を知らない。「これだから新人は」と心の中で舌打ちをする音が聞こえてくる。眠れないのに眠れない、そんな二重苦がやってくるのだ。

精神的な不安も大きいだろう。朝、目が覚めると少し驚いた表情を見せる。「あ、俺、今日も生きてるんだ」って。そりゃそうだよな。元気な日には現実を忘れちゃうけど、明らかに健常者よりも死ぬ確率が高いんだから。暇さえあればお腹が空いて、食べ物を絶えず口に運んでしまうのは、生きることへの執着。つまり、死にたくないって思い続けながら日々を生きている証拠だ。だから、眠ることが怖いのはすごく理解できる。

深夜4時、立ち上がった。抗がん剤の副作用の影響か、どうしても、どうしても眠れないみたいだ。少し散歩することを決意し、靴を履いた。夜の病棟は不気味だ。絶えず、いろいろな部屋からアラームが鳴っている。あっちも、こっちも、目の前の部屋も。股関節あたりに点滴の管が通っている影響か、足を少し引きずっている。大きめの病院着がずり落ちないように手で支えながら、片足で片足を引く。なんか侍みたいだな。

ケアルームにやってきた。大きな窓の外に濁るブルー色の空が広がっている、のではなく、ガラスの反射で自分の姿が映し出されている。気道を少しでも確保するために猫背で弱々しい病人の姿。いつもは夕陽が綺麗に見られる大きな窓は、現実を突きつける意地悪な鏡へと変貌する。この時間は決して夢ではないんだよ。ソコカラナニガミエル?

エレベーターに乗り込み、一階に降りる。そして、昼間は人でごった返していたのに、誰もいないロビーを見つめている。まるで異次元を回遊するように、ある日は椅子に座ってみたり、ある日はぼーっと突っ立ってみたりしている。たまに同じように眠れなくて散歩をする人とすれ違う。しかし、相手の境遇を察して挨拶はしない。互いに独りの時間を過ごしているのを、知っているからだろう。どんな手を使っても、心と経験は誰からも盗まれることは無い。巡り合って、触れる君のすべてが、君の愛の魔法だよ。

深夜5時、3階に行く。抗がん剤の副作用の影響か、歩き続けると健康な時に比べて疲れるのが早いようだ。息が少し荒れている。病室は最上階にあるから、帰るためにエレベーターに乗った。しかし、途中の3階のボタンを押した。この階にアイスクリームの自動販売機があるからだ。朝からアイス?なんて思うが、あの冷たさと甘さが、つまらない病院生活での優しい刺激になっているみたいなんだ。1つ190円と割高だが、深夜料金と割り切って100円玉を2枚入れる。おかげで、病室のベッドには10円玉が少しずつ積み上がっている。ガチャン、と音が鳴りアイスを手にして再びエレベーターに乗り込んだ。チン、と合図がなりその足でケアルームに行く。無料の温かい緑茶を紙コップに注ぎ、誰もいない部屋でアイスの箱を開ける。全部で6個の小さなアイスを、お茶を飲みながら、6回分違う表情を見せながら食べている。とても美味しそうだ。

早朝6時、空が少しずつ燃え始める。もはや眠ることは諦めたようだ。広い窓の目の前にあるソファに腰掛け、温かいお茶をチビチビと飲む。今どき珍しい有線イヤホンを耳につけ、お決まりの音楽を聴き始めたようだ。朝の匂いは嗅げないけど、街が少しずつ動き出しているのは、目に映る高速道路を走るトラックが増えてきた様子から分かる。鉛色の街は、夕日と見間違えるほど光る橙色の朝日が少しずつ染めていく。とても眩しいから消えてしまいそうだ。さあ、助走もつけずに思い切って運命に飛び乗っちゃえ。蹴り出す速度で何処までも行けるよ。今日も、君は生きている。

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全部で6回分の、甘さと、冷たさと、幸せと、ちょっぴり罪悪感と、それでも幸せと、食べ終わった寂しさ。

足りない心を満たしてくれるから、ピノが好きだ。箱を開ける瞬間は、まるでクリスマスプレゼントを開けるときにみたいに、心が駆け出す。温かいお茶と交互に食べると、喉の奥で冷たさと温かさが混じり合って気持ちが良い。

毎晩、まだ覚めない夢を見ている気分になるけど、誰かが枕元で起こしてくれるみたいなんだ。きっと暗闇の中で眠るのが怖いんだろうな。そのまま死んじゃいそうな気がするから。そのかわり、日が昇ると安心して眠くなる。今日も相変わらず、朝日は燃えるような鮮やかな橙色だ。こんな日は必ず聴きたくなる曲がある。画面の天気予報は、最低気温が20度を下回る日が増えてきたことを報じていた。病室は一定の温度と湿度で保たれているから季節の変化は分からない。外の世界は、もう秋を始めているのだろうか。夏が終わった、なぜなら空の色が変わったからと君は言った。気まぐれな秋晴れに、君の顔を浮かべた。

ふわああああ、と大きなあくびが出てきた。戻って眠るとしよう。きっと、きっと、未来が光だって闇だって関係ない。今日も、僕は生きている。

「そういえば、誰かから見られていた気がするけど…気のせいか」





-次回へ続く-
【悪性リンパ腫・闘病記⑮】病院食が食べられない!

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