【悪性リンパ腫・闘病記⑪】推しの看護師の話
-前回の記事はこちら-
・・・
「そのやり方じゃダメでしょ!」
看護師さんが医師から説教を受けている。これから手術を行うのだが、その準備の過程で看護師さんがヘマを打ってしまったらしい。
抗がん剤は強力な薬なので、腕から点滴を投与すると血管がボロボロになってしまう可能性がある。そのため、太い血管「大静脈」にカテーテルという太い管を大静脈の血管に刺し込む手術を行う必要がある。一般的には首の血管から薬を投与するのだが、私の腫瘍は胸部にあるため、最初は点滴を投与する位置を腫瘍から離した方が良いと判断された。そこで、クール1の点滴は太ももと腹部が交わる部分で、股関節のあたりに位置する「鼠蹊部」から投与されることが決まった。ビートたけしのギャグ「コマネチ」のポーズを取ったとき、ちょうど手でなぞる部分といえば分かりやすいだろうか。
まあ、結構デリケートな部分なんですよね。管を通す作業はメスを使う割と大掛かりな処置なのですが、部分麻酔で行うので意識はしっかりある。暴れないように腕を拘束され、身動きがあまり取れない状態にされた。さあ、これから手術が始まるぞ、と緊張していると、先ほど怒られて若干不機嫌な表情を浮かべた看護師が、その不満を勢いに乗せて思いっきりパンツを降ろしてきた。躊躇なんて、無い。
「先生、準備ができました(キリッ)」
あのー、、、私の心の準備はできてないのですが。って言いたかった。
・・・
入院生活は社会からほぼ完全に断絶される。面会は身内しか許されてないため、それを差し引くと、看護師さんとの会話だけが他者との関わりとなる。私は看護師さんの業務の妨げにならないように紳士的な振る舞いを心がけているので、必要以上の会話はしない。ただ淡々と彼ら彼女らの指示に応答するのみである。
<例:早朝、とある看護師さんとのコミュニケーション>
「おはようございます〜。日中担当の○○です。よろしくお願いします〜!」
「はい。お願いします。」
「まずは体温と血圧を測らせていただきます。」
「はい。お願いします。」
〜計測終了〜
「ありがとうございます!あと、採血を行いますので、パンツを脱いでください」
「はい。わかりました。」
「鼠蹊部から血を抜きますね〜。はい終わりました!パンツを履いていいですよ〜」
「はい。ありがとうございます。」
<例:就寝前、とある看護師さんとのコミュニケーション>
「おはようございます〜。夜間担当の△△です。よろしくお願いします〜!」
「はい。お願いします。」
「寝る前に、鼠蹊部の傷口の状態をチェックするのでパンツを脱いでください〜!」
「はい。わかりました。」
〜傷口チェック終了〜
「確認終わりました〜!明日、テープの張り替えを行いますね!パンツを履いても大丈夫ですよ〜!」
「はい。ありがとうございます。」
「それでは何かあったらナースボタンで。おやすみなさい!」
「はい。おやすみなさい。」
毎朝、毎晩看護師にパンツを脱げと言われる日々。羞恥プレイだの変態だの言われることは覚悟の上だが言わせてもらおう。何も嬉しくも、興奮もしない。そこには、ただ業務としてパンツを脱げと命令する者と、治療のために命じられるままパンツを脱ぐ男がいるだけなのである。ある日突然、陰毛が全て抜き落ちようと、変わらず淡々とパンツルーティンををこなすだけなのである。
・・・
さて、ここからは表題通り推しの看護師についての話をしたいと思う。担当の看護師は大体5〜6人くらいいるので、それぞれの個性を観察するのはとても面白い。ゲームも漫画も飽きちゃったから、人間観察くらいしかすることないんです変態でキモくてごめんなさい!
優しさって時に毒。一人、とても心配性でことあるごとに「大丈夫ですか?お辛いですよね・・・」と声をかけてくれる看護師の方がいらっしゃるのだが、優しさが空回りして、注射を打つときも「痛いですよね、ごめんなさい、ゆっくり刺しますからね・・・」と若干震えた手でゆっくり、ゆっくりと針を刺してくる。私は痛覚が鋭いのでそもそも注射は大嫌いなのだが、この看護師の方の注射はとにかく痛い。「ごめんなさい、とても痛いです・・・」と言うと「ごめんなさい!痛かったですよね、やり直します・・・」と再チャレンジ。当然、めっちゃ痛い。
一方で、何の躊躇もなく注射を刺してくる看護師がいる。通常、注射をするるときは「少しチクッとしますよ〜」と声かけが入るのだが、それも無し。
「はい注射するよ!」
〜注射針挿入〜
「はい終わり!お疲れさん!」
吐き気があってナースコールを呼ぶと
「吐き気止めね〜はいはい!」
〜吐き気止め注入〜
「はい終わり!お疲れさん!」
こちら側の事情を一切気にせずものすごいスピードで処置を終える。神業である。仕事ができる人とは、彼女のような人のことを言うのだろう。もちろん、他の看護師の方々もとても気遣いしてくれる方ばかりで、安心して闘病生活を送ることができている。が、彼女が来た時の安心感たるや計り知れない。昔、親戚がケーキをたくさん食べながら「痩せてるより太っていた方が安心感を与えられる。だから私は食べる。」と言っていた。当時は何言ってるんだこの人はと思ったが、今ならわかる。恰幅の良さと思い切りの良さは、途轍もない安心感を他者に与えることができるのだ。推せます。
ある日、発疹がひどい時期があって身体に張られた心電図を測るシールを寝ている間に剥がしてしまうことがあった。夜中に看護師さんがこっそり貼り直してくれてるみたいだが、ある日、モゾモゾと身体を触られている感覚を察知し、気持ち悪くていきなり目を覚ましてしまった。すると、目の前に見知らぬ人間。
「うわああああ!」
叫び声と共に張り倒してしまった。男性の看護師だった。
「相徳さん、心電図のシールは剥がしちゃダメです」
「はい。本当にごめんなさい・・・」
明日から再入院。より一層の感謝を込めて、お世話になろうと思う。
-次回へ続く-
【悪性リンパ腫・闘病記⑫】精子凍結の話-エッチなビデオとフェイクグリーン-
※シャイな方は読むのをお控えください