夏が近づくと見たくなる映画
「好きな映画は?」
「おすすめの映画は?」
「毎年必ず観る映画は?」
「今観たい映画は?」
これらの質問のみならず、“映画”という言葉を含む質問には、すべてこう答えていたような気がします。
「緑の光線!!」
そのくらいお気に入りの映画です。
『緑の光線』(エリック・ロメール監督/1986年)
とある孤独な(と本人が思い込んでしまっている)女の、ヴァカンスの様子を描いた作品です。
監督は、ヌーヴェルヴァーグに属するエリック・ロメール。
ヌーヴェルヴァーグとは、1950年代末にフランスで始まった映画運動のことです。
主演のマリー・リヴィエールは、すらりと背が高く目は切れ長で、一見すると“格好良い女性”という印象ですが、話し出すと少女のような可愛らしさがあります。
ちなみに、この映画(に限らずロメールの映画)の特徴として、会話のシーンが多くあることが挙げられます。
登場人物たちが本当によく喋るのです。
人と語り合うことが好きな方には、この監督の作品はおすすめです。
そして、この映画の何よりの魅力は、全編にわたって「夏」の空気に満ちていること。
撮影は、スタッフ3人という小編成チームで、フランスの避暑地をあちこちめぐりながら行われました。
ロケ撮影(屋外シーンがほとんど)かつ同時録音(台詞を別録りせず現場で録音すること)で、役者たちは即興的な台詞を喋り(台本らしい台本は用意されていませんでした。会話の中で言葉につまってもカメラは止まりません)、過剰な演出はなく、音楽も十秒ほどの短いフレーズのみ、出演者には現地の一般人も巻き込む……
この手法により、ロメールは、とても瑞々しく軽やかに「夏」を描き出しました。
(こういった即興性の高い現場主義的な演出は、ヌーヴェルヴァーグの特徴でもあります。逆に、それまでの映画は、「丁寧に作りこまれたセットで、台本通りの物語を演じる」というものが多かったのです。)
大きな波音、にぎやかな浜辺、潮の香り、照りつける陽ざし、冷たい飲み物、ヴァカンスをめぐる会話、色とりどりのワンピース……さまざまな夏のモチーフがすべて、そのまま画面の向こうにあります。
この映画を観ないと夏が始まりません。
ところが、2年前、また新しい「夏」の映画に出会ってしまいました。
『君の名前で僕を呼んで』(ルカ・グァダニーノ監督/2017年)
これも、ヴァカンスの話です。
主演のティモシー・シャラメがとても魅力的です。
この映画において、私が感じる一番の魅力は、光と色彩です。
よく晴れた広い空、家の周りに生い茂る緑、鮮やかなアプリコットジュース、胸元に光るネックレス、透き通るような陽の光、ひんやりとうす暗い室内。きらきらとかがやく湖では、美しい古代の少年(彫刻)が水面にパシャリと顔を出します。
初めて見たとき、その画面の美しさに息がつまりそうでした。
夏がこんなに美しい季節だったとは……!
というわけで私は、今年もこの2本を観て夏を迎えます。
夏はもう、すぐそこです。