「何者にもなれない」の何者ってなに?
「自分はまだ何者でもない」「何者かになりたい」みたいな言葉をたまに目にする度、なんだか違和感を感じてしまう。
何者ってなんだよ。
一体どういう意味合いで使ってんの?
わたし、気になります!
というわけで調べてみました。
言葉の意味と用法が違う
「何者」を辞書で引いてみると、こう書いてある。
1 はっきりしない相手をさす語。だれ。何人(なにびと)。
2 あらゆる人。いかなる人。何人(なにびと)。
でも「何者にもなれない」みたいな文章は、ちょっと違うニュアンスを含んでいる気がする。
そこで、Googleで「何者かになりたい」で検索してみた。
私の苦手な自己啓発的な記事がいっぱい出てくる…。
怪しいセミナーへのリンクを誤って踏んでしまわないように気を付けながら、頑張って読み進めてみた。
でも抽象的で曖昧なことしか書いていないので、私が探し求めている「何者」の意味には辿り着けない。
そこで「何者」と検索した時に必ず出てくる、朝井リョウの著書「何者」になら答えがあるのではないかと思い、Kindleで購入して読むことにした。
軽めのレビューを
直木賞受賞作なので、読書家の方なら当然読破済みであろうこの作品。
私は「いつか読もう」と思って忘れていたのでちょうど良い機会だった。
映画化もしてるので、あらすじなんかは多分みなさん知っているという前提で割愛させていただくとして、感想だけ。
一言で言うと、これは冷笑系を殺す小説だ。
いわゆる意識高い系の人の言動を嘲笑い小馬鹿にし、高みの見物を決め込んでいるような奴らの横っ面を、パシーン!と叩くような内容。
の割には、思っていたよりも全体的にあっさりしていた。
なんだろう。
恋愛関係の話が薄いせいかもしれない。
非常にリアリティのある日常を描いているにも関わらず、臭いものに蓋をしているような、演劇っぽい描写が気になった。
実際に作中にも演劇が出てくるので、ワザとそうしているのかもしれない。
直木賞を受賞しているのだから、きっと私の感性がちょっとズレているのでしょう。
軽快で読みやすい文章ですが、同様の読みやすさ+リアリティで言うなら誉田哲也の方が私は好きかな、と感じた。
ちなみに私は誉田哲也マニアなので偏見と愛が大いに入っているため、朝井リョウマニアのみなさん許してください。
何者の正体
さて本題である。
この本を読んで「何者」の正体が見えてきた。
「何者かになりたい」とは大学生特有の病だ。
これには2つの要因がある。
ひとつは、大学生という立場がこれから社会人として巣立っていく前の、最後の自分探しの機会だという点。
自分は一体何になりたいのか。
自分とは何ぞや?
という中二病以来の哲学的な疑問を自身に持つのだ。
そうした大学生は一人旅をしたり、インドへ行ったり、真理を教えてくれる教主様に出会って宗教にハマったり、ネットワークビジネスの餌食になってしまったりもする。
何らかの方法で、自分が何者かを他者から教えてもらおうとするのだ。
しかしもうひとつの要因のほうが深刻だ。
自己分析シートが悪の元凶
就活生は必ず自己分析シートという紙を埋めなければならない。
しかしこれはのろいのアイテムだ。
自分の長所は?
強みは?
大学生活で頑張ってきたことは?
将来やりたいことは?
唐突に突きつけられる難問に、就活生は慌てふためく。
そんなこと、急に言われたって…。
え、強み?
なにかあったっけ?
そんなの分からない…。
こうして煩悶し、大学生は「自分は何者なのか」という途方も無い迷路に迷い込む。
自己分析シートとは、自分に合った職種を探すためのものだ。
しかしこのシートを埋めるに当たって、就活生は自分の持ち駒の無さという現実を突き付けられてしまう。
本来大学生にそんな多くの持ち駒があるわけもないので、もはや習慣となっているこの仕組みはなかなか意地悪だ。
企業としても優秀な人材が欲しいのは分かるが、もうちょっと学生に優しい設計だったらいいのに、と思う。
何者か?お前はお前だ
以前新卒の就職活動について仕事で書いた時に色々調べたのだが、人によってかなり個人差が激しい印象を持った。
サッと内定を取る人もいれば、100社受けても内定0、なんて人もいる。
だからみんな自分の武器を持とうとして、留学したりインターンになったり検定を受けたり、なんとか装備を揃えようと頑張る。
自分でも正体が分かっていない何者かになろうとするのだ。
私は、俺は、きっと何かを成し遂げる人間になれる。
そう信じているから必死に装備を集める。
そうした「何者かになりたい」という向上心が実際に実を結ぶこともあるし、結ばなくても人はそれなりに自分の居場所を見つけていく。
ただ、大人になっても「私は何者にもなれなかった」と悩んでいる人にはパシーン!と言わせていただく。
あなたはあなたであり、他の誰もあなたにはなれないのだ。