小説:指輪選び -散策編-
「バレンタインのお返し、何がいい?」
唐突に聞かれた問いに、思わずたじろぐ。何がいいかなんて全く考えていなかったので頭の中は真っ白だ。ホワイトデー目当てでバレンタインにチョコを贈った訳でもないし、何がいいだろう?と聞かれて初めて考える。
「...何も考えてなかった」
素直にその旨を伝えると、じゃあホワイトデーまでに考えておいてと言われてしまった。そのまま、その日のデートは終わり、帰宅する。コートをハンガーにかけて洗面台で手を洗い目についた食器を片付けてからお茶を飲んだ。ふぅーっと一呼吸して、さっき聞かれた問いの答えを探ろうと携帯を取り出し、記事を漁る。
財布だのバックだの、服だの、お菓子だの、色々出てくるのをスクロールして流し見して、そのまま画面をオフにしてしまった。どれもイマイチピンとこないからだった。何だろう、そういう自分が欲しいものは自分で手に入れればいいのにと思ってしまう自分がいた。相手である彼氏だって、自分で働いたお金で工面してどうにかしようとしてくれているわけで、それに便乗して高いものをねだるのは違うと思うからだ。
自分の欲しいものくらい自分で手に入れたい。
それに、相手に任せて「服」とアバウトに言ったところで自分の好みに合った服が出てくる確率なんて30%もあれば十分ってくらいお互いの好みなんて雲泥の差なのだから、そう言うものは結局自分で探してお気に入りのものを手に入れた方が早かったりする。きっと個人にも相手にもよるだろうけれど。
お返しを返してくれようとしてくれる気持ちが嬉しかった私は、私だけもらうのは嫌だなぁと思い始め、結局ペアで何か身につけられるものがいいと伝えることにした。
後日、その旨を伝えると、お揃いの服でペアルックはしたことがあったので、アクセサリーをつけてみようという話になり、ペアリングを探そうと話がとんとん拍子で進んだ。
ハンドメイドで作れるお店はそれなりに多い。口コミ評価で確認しながら、思い出も作れるであろう場所をいくつかピックアップする。そのピックアップしたお店の中から彼の好みを聞きつつ、最終的に「このお店が良い」と言い合えたお店へ向かう。
まだホワイトデーにはなっていないけれど、だからこそ下見も兼ねて見に行ける楽しさでワクワクしながらコツコツとブーツを履いた足で進んだ。