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【小説】 し

「死者が大変多く弔う場所が無い為、新たに墓所が新設されました。こちらは東京ドーム50個分の広さを持つ墓所となります。現場のシガラキさん、どうぞ」
「はい、シガラキです。私は今、新設された墓所に来ております。建物の外観は真っ白な壁で覆われており、出入り口は1箇所というとてもシンプルな作りをしております。早速中へ入っていきましょう」
そう言って、画面の中の女性は中へと入っていく。入り口はスポーツセンターのような至って普通の透明なスライド式のドアだったが、その後マンションのような広場へとやってきていた。
「わあーとても白いですね、壁も天井も床も全て真っ白です。入り口には指紋認証と虹彩認証が備わっており、本人確認への徹底ぶりが伺えます」
中央に一つだけコントロールパネルがあり、そこに手と顔を近づけるような仕組みとなっているようだ。
「こちらの管理をしているシタラさんにお話を聞いてみましょう。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
人柄の良さそうなメガネをかけたおじさんが画面に映る。
「こちらは新設されたくぬぎ墓所になります。外観は普通のデータセンターのような佇まいですね、窓は一つもありません。出入り口は1箇所のみとなっており、参りたい方はみなさんここを通って中で分割されていくような仕組みとなっております」
「出入り口を1箇所に絞ったのはなぜでしょうか」
「セキュリティ的な問題ですね、亡くなった方の尊厳を荒らされては困ります。ただのお骨になったとしても、毎回訪れるたびに亡くなった方もお参りされた方も気持ちよくお会いできる場になればと考えています」
「なるほど、とても考えられていますね」
「皆様の大切なご遺族の方とお会いできる場はシンプルに、清潔さが欠かせないと考えています。そこで、本建物は全て白塗りとさせていただきました。白は従来生死を司る色とされています。喪服の黒で染められて悲しみに浸るのも、お葬式だけで十分だと私共は考えております」
「そうなんですね」
「従来の死者を弔う形は山にあり、山岳地帯が最も天国へと近いことが理由とされていましたが、町の発展に伴い、山も切り崩されて平坦な場所が増えました。山岳志向が無くなって来ている今、我々に必要なのは必要な時に必要な場所で故人を悼むことではないでしょうか」
「そうですね」
「生きている人間の時間はとても短いです。あっという間に年をとった私だからこそ思いますが、故人を悼む時間もまた、スムーズであるべきだと考えています」
そう言って笑うおじさんは朗らかに言う。
その後も建物の説明は長々と続いた。あれはこういう作りだとか、こう言う流れでお参りできますだとか、こう言うフローでお墓は購入できますだとか。
「今日ご覧になられた方限定で、クーポンコードをお教えします。コードはこちら。資料請求だけでも大歓迎です。お待ちしております」
そう締めくくって番組は終わった。
どこか、後味の悪い匂いがした。

時代は後期高齢化社会に突入した。
右を見ても、左を見ても、お年寄りしかいない。
だからこそ、少しでも「若い」とされる人はターゲットにされる。
まだ死んでもいないのに、購買力のある人間というだけで「墓」を売りつけられる。最近はもっぱら増えて、チラシもネットの広告も、お墓ばかりになった。親族が亡くなった時に備えて、とかうまく文句を取り繕って。
そろそろ内心、うんざりしてくる。
だってまだ、生きているのに。

電車に揺られて海へ出た。
都心の墓ムーブはすごい。誰も彼もが自分が死んだ時に遺族が困らないようにだとか、相手のためを思ってだとか偽善ぶって、墓を買う。自分の最終地点を決める。
私はまだ、最終地点さえ決めたくないのに。
「自分で決められるうちが花でしょ?死んだら何も喋れないもの」
そう言って、母も墓を買った。
「荷物も整理しないとねぇ、大変だろうし。動けるうちにね」
タンスに仕舞われていた着ないであろう服やら皿やらを出していく。
手伝おうか?と声をかけたら、いいわよ、自分のことやんなさいと言って断られてしまった。まだ若いのに、と子供心に思う。そんなに、死後が大事だろうか?私にとっては、今が大事なのに。
ふと目を上げたら電車は海を並走していた。キラキラと水面が陽の光を浴びて照らされている。
「…綺麗!」
思わず漏れた一言が、誰もいない電車に響く。
久しぶりに遠出をする今が、楽しみで仕方ない。
何も予定を決めず、行き当たりばったりで食べ物やを見つけることも、雑貨屋さんを巡ることも、古本屋さんを回ることも好きだ。
次の街は、どんなものがあるだろうか。ワクワクするものが待っているだろうか?
行ったことのない未知にこそ、自分の道がある気がしている。

「まつり〜まつり駅到着」
アナウンスが聞こえたので、降りてみることにした。まだ、降りたことのない駅だったから。
潮風が薫る、緑色の駅だった。

(つづく)


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