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デザイナーと会う(秋)|それでも日々は続く vol.3

谷垣大河(Tanigaki Taiga)
1994年生まれ。天牛堺書店、紀伊國屋書店を経て2022年に清風堂書店入社(2025年2月末で閉店)。
X(Twitter)@Silver_Hammer6

秋 峰善(Shu Pongseon)
千葉市稲毛区育ち。2024年3月「秋月圓」創業、『夏葉社日記』刊行(第3刷)。2025年1月「シリーズ人間」創刊(「新世界」)。趣味は将棋(歴3年)とサッカー(歴30年)。
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2月4日(火)

デザイナーさんと珈琲屋で待ち合わせ。会うのは2回目だけど、はじめての打ち合わせ。というのも、『トレーニング』の装丁デザイナーが決まったのは刊行の1カ月前だった。今回の「シリーズ人間」もイメージが生まれてから、あれよあれという間に本が出来上がっていた。この間の記憶はほとんどない。謎の行動力といえば、本をつくるときはいつもそうかもしれない。居ても立っても居られなくなって、からだが自然と動いている。第1号の著者を決めてからの3カ月間、一度も止まることはなかった。やっとのことで原稿が揃って、InDesign(文字組みソフト)をはじめてみるもその難しさに匙を投げようとしたところ神様のように現れたのが、山内宏一郎さん(SAIWAI DESIGN)だった(友田とんさんにもお世話になる)。1回目に会ったのは昨年3月の岬書店(『夏葉社日記』の初売り)で、この間メールと電話でのやり取りだけだった。
約束すると、突然その日に行きたくなくなってしまう。たのしみなのに、ぜんぜん行きたくない。たまに起こる、不思議な現象。結局ギリギリになってシャワーを浴び、出かける準備がはじまる。阿部廣二さんから譲り受けたアメリカ軍のM-65フィールドジャケットに、ダークグレー色のダメージ加工ニット帽子を合わせる。このたびのお礼のために数日前に長崎から取り寄せた、お茶の秋月園あきづきえんの白烏龍茶とジャスミン茶の詰め合わせも忘れずに持っていく。
緊張しながら、京王井の頭線沿線の山内さん馴染みの店へ向かう。美しいグレー色のロングコートにハットで身を包む山内さんが登場。久しぶりの再会に喜びつつ、「シリーズ人間」の方向性や条件を話し合う。お茶のセットも忘れずに渡す。毎号カバーの色だけでなく、装画を描き下ろす案にも前向きにノってくれた(散歩鳥さんも了承済み)。依頼主は弊社なのに、なぜか珈琲を奢ってもらう。しかも打ち合わせの前に、サンブックス浜田山さんでわざわざ本を買ってきてくれる。津野海太郎=著、宮田文久=編/編集の提案(黒鳥社)。ぼくの編集理念とかぶるところがあるらしい。
「シリーズ人間」(第2号)の原稿を渡す。これをどう読むのか、とても気になる。5年前には目をつけていた念願の著者。この書き手を見つけたのは、5年前の谷垣さんに他ならない(いっしょに見つけたよね?)。「シリーズ人間」という枠組みをつくったのは、この作家をみなさんに紹介したかったからといってもいい。ぜひ世に問うてみたい。文学賞を狙いたいが、やっぱり初出が文芸誌でなくてはダメなのか。

2月12日(水)

自宅の近くで西からの陽を浴びてぼんやりしながら、この日記を書いている。膝までかぶる薄ピンク色のダウンジャケットをお召しになった品のいいご老人が小さなチワワを連れて、目の前を通り過ぎる。前から配達員の乗るスクーターが現れ、その危険性から老人は犬を脇に避けようとする。犬は急に手綱を引っ張られ驚いたようで、はるか上にある飼い主の顔面を目をまん丸くして凝視している。老人はそれに気づかない。老人は「わが子」を守るために必死で、犬はそれに気づけない。バイクが去ると、さきまでのように小型犬特有のアスファルトと爪が奏でるチャカチャカ音が響きわたる。4本の脚が何本にも見える。『ゴッドファーザー』が観たい。


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