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◆胡瓜、すこし苦手なもの



夫は胡瓜が苦手だ。他の瓜科の食材も苦手だが、胡瓜が、特に。

しかし残念なことに、胡瓜は手頃だしいつでも手に入る一般的な食材だからか、居酒屋のお通しなんかによく入っている。たたき胡瓜を注文しないことはできるが、お通しは避けられない。

そんな時は、わたしが丁寧に胡瓜を拾って食べる。拾い残した胡瓜は夫が集め、わたしの皿にのせる。

そんなわけで、夫と暮らし始めてからの2年半、胡瓜を買ったことがなかった。


ある日、夫の友人たちが我が家へ遊びに来ることになった。友人が遊びに来る日はささやかながら手料理を振る舞うことにしているので、その日も何品か用意した。

献立を考えているとき、サラダ枠で思い浮かんだのが「コブサラダ」だった。見た目も華やかだし、わたしはアボガドが好きだし、作ったことはないけれどホームパーティーにうってつけな気がした。

当日の昼、スーパーでの買い出し中に、ふと気が向いて胡瓜を買った。コブサラダに入れようと思ったのだ。

イガイガが立派で多いのが美味しいらしい。少なくとも、わたしの師である母はそう言っていた。

ひさびさに買う胡瓜。2本。

手にイガイガが当たって、しっとりとした重みがある。鮮やかな緑が気持ちいい。なんとなく、真っ直ぐではなくて少し反ったものを選んだ。


さて、ホームパーティーで大皿にコブサラダを作った。大皿とはいえ、他にもトマトやアボガド、ゆで卵など数種類の食材をのせたため、胡瓜は1本しか使わなかった。



余った1本の胡瓜。



もちろん、夫は食べない。
そして、なぜかわたしも、食べる気にならなかった。

冷蔵庫に残っている胡瓜を見ているうちに、もしかして、と思った。


もしかして、わたしも胡瓜を好きじゃないのかもしれない。

胡瓜は「夫の苦手なもの」だ。わたしは胡瓜を「食べられる」から、夫とはちがって「苦手ではない」と思っていた。

でも、わたしも「食べられる」だけで、「進んでは食べない」のだと気づいた。これって「苦手」なんだろうか。



なんとなく、頭に浮かんだ人がいた。

職場でうまく付き合ってはいたが、なんとなく進んで仲良くなりたいとは思わなかった人。仕事終わりに「飲み行こうよ」と、声をかけようとは思わなかった人。

あの人、胡瓜だったんだ。

わたしにとっての胡瓜。

あんまり得意じゃないけど、出されればちゃんと食べきる胡瓜。でも、自分からは選ばない胡瓜。



それから、「ちょっと苦手なもの」に出会うと『胡瓜だなぁ〜』なんて、ぼんやり考える。

大好きなものとだけでなくて、胡瓜ともうまく付き合っていければいいなと思う。

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