「先生、わたしは えびが こわいです」の謎~日本語の発音を考える~
ある日の授業で
些細なことだが、記憶に残っていることがある。
ある日、授業で、嫌いなものや怖いものを、皆に尋ねた。
すると、ある一人はこう言った。
「先生、わたしは えび が きらいです。」
私は「なるほど、えびですね」と、頷き、また質問した。
「えびが嫌いなんですね。どうしてですか?」
「ううん…あのう、えびは、こわいです。」
その子は、少し恥ずかしそうに、そう口に出した。
えびが、「怖い」?
怖い…怖いか?
いや、確かに怖いし気持ち悪いかもしれない。人によっては。
私はすぐさまそういう風に考え直し、にっこり微笑んだ。
「そうですね。人によっては確かに、怖いですね。」
「はい。そして…とても長いですから。」
「長い?…長い?」
私はおそらく、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたに違いない。
えびは、「長い」のか?
「うーん…長いえびも、たぶん、いるね…。でも、えびはおいしいと思います。だから、私は、えびが好きですよ。」
私がそう言うと、その女の子の方も、不思議そうな顔をして沈黙した。
おかしなことを言ったかな?伝わらなかったかな?
そう思い、最後の手段、翻訳機にかけて、彼女に中国語訳を見せた。
すると、それを見た途端、彼女はおかしくてたまらないといった感じで、慌てて「えび!えび!えび!」と連呼し始めた。
戸惑いながら彼女の声をよく聞いていると、かすかに聞こえたのだ。
「へび!」と。
私は、合点がいき、ああ!と叫んですぐに謝った。
そして納得すると同時に笑いがこみ上げてきた。
なんだ、「蛇」だったのか…。そりゃそうだ。
「はひふへほ」は「ha hi fu he ho」
私は「えび」問題について、授業のあとしばらく考えた。「へ」を「え」と発音した理由を自分なりに想像してみた。
まずは一度口に出してみる。「はひふへほ」と。
そして、これを初めて発音する人に説明するとしたら、どのように伝えるべきだろう。と考えた。
関連知識を挙げるなら、まず一つめに、発音記号だろう。
は[ ha ]
ひ[ çi ]
ふ[ ɸɯ ]
へ[ he ]
ほ[ ho ]
なんだこの見慣れない記号は、と思うが、
簡単に考えると「ひ」と「ふ」だけ他と違う、ということがわかる。
この記号は「ç」=「ひゃ」「ɸ」=「ふぁ」。
ひは、「ひゃ」と発音する時のポジション・息の出し方で、発音しているし、「ふ」は、「ふぁ」と発音する時のポジション・息の出し方で発音している。
「はひふへほ」とゆっくり口に出すと、よくわかる。
ただし、今回の問題は「へ」だ。
「he」の発音は、どこがポイントになっているかというと、声門。のどの奥で、調節して発音する音だ。中国語の場合、方言によって違ったりするけれど、中国人にとって「へ」は発音が難しい音ではないと思う。
つまり…
色々考えてきたけれど、これはもっと単純な話かもしれない。彼女は日本語歴3ヶ月ほどだった。
だから、助詞の「へ」と、ごっちゃになってしまったのかもしれない。
「は」が出てきたらどれも「わ」と読もうとする人もいた。
真相はわからない。
しかし、その人がどれくらいのレベルで、他の発音はどうなのか、それによって考えるべきだな、と思った。
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