そらとおく
昔のノートの走り書きに俳句が書いてあった。
まあ昔のわたしが書いたのだ。
きったない字で。
天遠く
熱砂のさめぬ
夜の底
これはいったいなんのことやら。
ご丁寧に"天"に"そら"と読み仮名が振ってあるし、"さめぬ"に"冷めぬ"と"醒めぬ"と二種類の漢字が振ってある。
消ゴムの跡もあるし、これは余程こねくりまわして捻り出した様子。
俳句はとても難しいと思う。
小学校でも大学でも俳句についての授業があったけれど、わたしはものすごく苦手だった。
すごくすごく考えて、考えれば考えるほどぐちゃぐちゃになっていく。
文章は長くするより短くするほうが難しい。
俳句なんて17音しか無いのだ。
こんな中に言いたいことを詰めこんで、美しく終わらせるなんてまさに至難の技。
俳句が思いどおりに書けたらもうすごい。
拍手喝采して誉め称えたい。
わたしの技術とセンスはまったくもって足りていない。
このノートの隅から発掘されたわたしの俳句をみたとき、なんだこれ、なんっか…微妙だなぁ…と思った。たぶん"熱砂"が夏の季語っぽいけど、"そら遠く"とかも他の季節の季語だったとかありそうだし、ぱっと意味がわからないし。
相変わらず俳句苦手なんだろうねぇと自分に宛てて話しかけてしまった。
どれどれ、"そら遠く"が季語被ってないかとりあえず検索してみようか。
検索してみると、なんと一番上にひとつの詩が出てきた。
http://www.kangin.or.jp/learning/text/poetry/s_D3_02.html
カール・ブッセ
上田敏訳 『海潮音』より
山のあなた
山のあなたの空遠く
「幸」住むと人のいふ。
噫、われひとと尋とめゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸」住むと人のいふ。
幸せが山の空の彼方になくて、もっと彼方にあるという、悲しみと希望が織り込まれた、なんかとても切なくて人それぞれなにか思い浮かぶような詩。
ああ、たぶんわたしも夏の夜の暑くてだるくて寝つけない夜に遠い空のむこうが遠いなって。底から届かない天を見上げているような。
たぶんそんなこと言いたかったのかもしれない。
わたしは改めて自分の俳句を見返した。
やっぱり悪くないよ、誰がなんと言おうと。
技術とか良し悪しとかは置いといて。
今までで初めて自分が作った俳句も悪くないと思った。
素敵な詩にも出逢えたし。
わたしは明日図書館に『海潮音』を探しに行こうと思っている。