1秒。
今、ホームで電車を待っている。
目の前には乗りたい電車の一本前、行き先の違う電車が停まっている。
で、なぜか大音量のブザーのひび割れた音がホーム中に響き渡っている。
ええ……
めちゃくちゃ音でかい。
音が二重になって、より大きくなってしまった。
耳がおかしくなりそう。
にわかに放送が飛び交い、慌ただしくなる。
「業務連絡、業務連絡ただいま4番線…………」
そんな中、わたしは不安になりながらも、なにをするでもなくぼーっと列に並んでいる。
まわりを見回しても誰も慌ててもいないし、動き出す人もいない。
わたしも含めて、誰一人、表情も変えず、なんのリアクションもしない。
あれ?この音みんな聞こえてるよね。実はわたしにしか聞こえてなかったりして。
なんて妄想をしながらぼーっと並んでいる。
耳がおかしくなりそう。
そして冷たい風にさらされた指が冷たすぎて痛い。
感覚がないな。小指の先から風に持っていかれてちぎれていってたりして。
なんて、またぼーっと妄想をする。
ひび割れた不穏な音の中では楽しい妄想をするのは難しいらしい。
ちょうど下ばかり見ていた目線をあげたとき、ぷつっとブザーの音が止んだ。
あっ。
急に空気が緩んだようで、思わずふふっと顔がほころんだ。
そのとき、ぱちりと目があった。
目の前の電車の窓越しに、同じタイミングで顔がほころんだ誰かも知らない彼と。
1秒。
そして運転再開のアナウンスが流れて、電車はゆっくりと動き出した。
なんかよくわからないけど恥ずかしいようなハニカミたくなるこの気持ち。
どこの誰かもわからないけれど、謎の仲間感。
たまにある、この不思議な感覚。
いつの間にかキンキンに冷えていた指先が少し温かくなっていた。
電車は何事もなかったかのように順調に走り、もうすぐ最寄り駅。
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