迷惑電話の話
実家にいた頃の話なんだけど、実家って迷惑電話やセールス電話がじゃんじゃかかかって来てた。
車のセールスから神様信じてますかまでバラエティに富んでいた。
いつもは電話を取らず、ただ相手が切るのを待っていたけど、ある日「この電話出てみたらどうなるかな」という好奇心に負けて出たことがある。
まぁ、結果は予想つくけど、セールスの電話だった。
このまま話を聞くだけだとつまらないと思い、自分が思いつく限りの相手したくない人を演じた。
思いついたのは話聞かないタイプのカタコトの人。
喋りまくり気持ちよくなってる電話相手に向かって
「ウゥーン?エーン?オーゥ?ニ、ニホンゴォ?」
と甲高い声で話した。
カタコトだけで良かったのだが、そこは欲が出てしまいオプションで甲高い声にした。
私が喋ったあと、電話口は暫く黙り込み時折「え?え?」と困惑した声が聞こえた。
「ウゥーン?ナニィー?デン、デンワー、ナニー?」
続けざまに私が話すと相手は慌てながらも、日本語分かりますか?○○という会社の〜……と話し始めた。
諦めない精神、さすがセールス。
しかし私も負けてはいられない。
セールスの人が一生懸命分かりやすい日本語で説明していうのを遮りながら相槌を打った。
「オン?クルーマ?ンン?カウ?ニ、ニホンゴォ」
「えーと、日本語分かります?それか他にわかる方は居ますか?」
「ニホンゴォ、アタシ?ノー!ワカラナーイ!」
「日本語わかる方は……」
「イイエー!ニホンゴォ!!ワカラ!!ワカラナイヨォオオオ!!!」
もう最後の方は私もテンションがあがり、叫び声のような声だった。
右手を振り上げシャウトするような快感。
気持ちよくなってる私をよそに、セールスは怯えた様子だった。
あの…や、えっと…をやたら繰り返し、最後は「そうですか……えーと……すみません」と言い一方的に電話を切った。
勝った。
セールスを諦めさせた。
凄くくだらない方法で。
受話器を置いた瞬間、我が家はワーッと歓喜の声があがった。手を叩き大笑いする家族。
ここに平和が戻ったのだ。
しかし、数日後。
この平和はあっけなく崩れさる。
そう、かかってきたのだ。
また迷惑電話が!!
しかもまた車のセールス。
懲りないねぇ〜と首を鳴らし電話を取ろうとする私だったが、ふと思いとどまった。
以前と同じやり方ではつまらないのでは?
そう、同じカタコトでは相手も対策を練ってきているかもしれない。
ゴリ押ししてくるかもしれない。
じゃあ、もっと話してもダメだと思わせるには何をすればいいのか……。
私は無い脳みそをフルに使い、洗面台へ向かった。
そして歯ブラシに歯磨き粉をつけ、電話へ戻ってきた。
それを見た両親は流石に驚いていた。
な、何のために歯ブラシ……?
両親のそんな疑問をよそに私は満を持して受話器を取った。
取った電話口からは待ってましたとばかりに高いトーンで喋るセールスマン。
私はそれを聞き流し、手に握っていた歯ブラシで全力歯磨きをし始めた。
相手に聞こえるよう電話を口に近づけてシャカシャカ。
大袈裟なくらい大きな動作でシャカシャカ。
歯磨き粉もたっぷりつけていたので、泡立つ泡立つシャカシャカ。
セールスは困惑しつつも話し続けるが、シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ延々と聞こえることに不安を感じたのか「あの、聞いてますか?」と呼びかけてきた。
ここで答えてしまっては台無し。
私はより一層奏でるかのように歯磨きをした。
そりゃもう、泡だらけ。
口いっぱいの泡。
そろそろ口すすぎたいな〜と思いつつもシャカシャカし続けた。
セールスは何を言っても応答せず、ただただ聞こえる歯磨き音に最後は「あ、えーと、あの、失礼します」と小さな声で挨拶をして静かに電話を切った。
勝った。
2度目の勝利。
1回目に比べてただ歯磨きをするだけだから頭も使わないし口もスッキリして良いことしかない!!
電話を切ったあとガッツポーズを決める私。当然家族も歓喜に満ちた顔をしてるかと思いきや……
ドン引きをしていた。
そりゃ娘が全力歯磨きを電話で聞かせてたら将来が不安にもなる。
もし、セールス電話にお困りの方が居たら是非全力歯磨きを試して欲しい。
効果は覿面!
だけど、家族からは将来の心配や精神状態の心配をされてしまうので、1人の時に試してみてほしい。