舞台【メディスン】で芝居を浴びて呆然とした話
先日、舞台「Medicine(メディスン)」を観劇してきました。
田中圭さん、奈緒さん、富山えり子さん、荒井康太(Drs)ご出演の舞台。
鑑賞後はただただ呆然とし、「すごいものを見てしまった…」という余韻に浸りながら帰宅しました。
この記事は、舞台「Medicine(メディスン)」の鑑賞記録です。
作品情報
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▼キャスト・スタッフ
【作】エンダ・ウォルシュ
【翻訳】小宮山智津子
【演出】白井晃
【出演】田中圭、奈緒、富山えり子、荒井康太(Drs)
▼ストーリー
舞台はたったひとつの部屋
舞台は、ある病院らしき施設の中のひとつの部屋。
主人公は、田中圭さん演じるパジャマ姿のジョン・ケイン。
ジョン・ケインがいるその部屋に、奈緒さんと富山えり子さんが演じる二人がやってきて、物語が展開していきます。
荒井康太さんのドラム演奏が響く中、100分間休憩無しでの上演でした。
ここがどこなのか、彼が誰なのか、何も語られない
あらすじにもあるように、舞台はおそらく病院。
そして、おそらく精神病棟の一室で、ジョン・ケインは精神疾患を患い長い間そこに入院している患者だと思います。
そこにやってきた二人のメアリーは、役者をしていると言いますが、実際のところこの場所がどこなのか、彼らが誰なのかということは語られないまま、物語が進みます。
原作でも、ここがどこなのか、彼らが誰なのかについては明確には書かれていないということ。
また、鑑賞していくと次第に、そもそもこの物語は現実なのか、虚構なのか、もしかしたらジョン・ケインの妄想なのかもしれないし、すべて芝居なのかもしれないし、事実かのように語られる過去が本当なのか嘘なのかもわからないくなっていく。
何ひとつ答え合わせは出来ないまま進む、とても独特な物語。
各々の受け止め方で解釈をし、分からないなりにも分からないこと自体の不気味さを楽しめるような作品ですが、とても難しい物語でした。
ポップでシリアス、気付けば鳥肌
冒頭から、奈緒さんや富山えり子さんのチャーミングかつパワフルなお芝居が炸裂。
音楽に乗って踊ったり、思わず笑ってしまう軽妙な会話劇があったり。
ここはどこ、あなたは誰?状態で、謎は多くありつつも、なんだか面白くて、楽しめる。
そんな舞台だったはずなのに。
後半は物凄いスピード感で狂気じみたお芝居が繰り広げられ、何度鳥肌が立ったことか…。
どういう話なのか自分なりに解釈して理解した時点で、ゾワゾワ。
皆さんのお芝居のあまりの迫力にゾワゾワ。
ドラムが奏でる不快な音にゾワゾワ。
前半とはうって変わって、あんな感情で終わるとは…。
鑑賞後、しばし呆然としてしまいました。
"女優"だった奈緒さん
初めて奈緒さんのお芝居を生で拝見して、「女優さんってこういう人のことを言うんだ」と思いました。
老人、メアリー、そして…。
物語の中で色々な顔を見せる奈緒さんの役柄ですが、少女のように無邪気にはしゃいだり、わんぱくに歌って踊ったり、ジョンを心配そうに見る人間らしさが垣間見えたり、しっとりした女性らしさもあったり。
ひとつの作品の中で、ころころと表情や雰囲気が変わって。
その度に声の出し方や姿勢、動き方や仕草も変わって、それがどれもとても自然で、そして迫力があって。
普段テレビドラマなど映像作品を通して感じる奈緒さんは、華奢で小柄で可愛らしい印象で、もちろん実物の奈緒さんもその通りではあったのですが、舞台に立ちお芝居をされる奈緒さんのオーラは、大きくて、力強かった。
全身で表現して、魂から台詞を吐いているような、うまく言えないのですが、そんな迫力があって、舞台を拝見しながら「女優」という言葉が浮かんできました。
富山えり子さんの裏切り
ロブスターで登場する富山えり子さん。
(文字で書くと意味がわからないですよね(笑) でもロブスターなんです(笑))
その姿や、思わず笑ってしまう台詞や動きで、客席の温度をあたためてくれるようなポップなお芝居を見せてくれていたのに、後半戦、突然冷たく残酷になり、私たち鑑賞者をいっきに冷酷に突き放していくようなお芝居。
圧倒的な存在感でストーリーをぐいぐいと展開させていくそのお姿が圧巻で、とても素敵でした。
今回の観劇をするまで失礼ながら存じ上げなかったのですが、よくよく調べてみると、あの作品にもあの作品にもいらっしゃったではないですか!
生でお芝居を拝見して、また別の舞台も鑑賞してみたいなと思いました。
田中圭さんの凄み
田中圭さんの舞台も初めて鑑賞したのですが、なんですかこの方…すごすぎました…。
演じられたジョン・ケインという役柄は、最初はどこかぼんやりとした虚ろな感じで、会話やコミュニケーションが苦手で、あまり声も張らず背中も曲がっておろおろしているような印象。
だったのに…
ラストに向けて、そのジョン・ケインが、狂ったように、悲鳴のように、叫びながらたたみかけるように独白をするシーンに入るのですが、そこでの田中圭さんのお芝居が本当にすごかったです。
呆気にとられるというか、鳥肌が止まらず、涙すら込み上げてくるような。
「どうしちゃったの」「大丈夫?」と心配になってしまうような。
ただただ口を開けて呆然と見ていました。
そんな感覚のまま舞台が終わるので、もうカーテンコールとか、呆然ですよね。
いや、田中圭さんもなかなかスイッチオフ出来ないのではないだろうか…。
あんなお芝居を昼夜公演するなんて体力と心がもつのだろうか…。
と、心配になってしまうくらい。大迫力。
田中圭さんといえば様々な役柄を演じられていますが、イメージ的には「おっさんずラブ」とか、ああいうはっちゃけたコミカルなお芝居の印象が多く持たれていると思うのですが、今回舞台を拝見して、そこにいたのはまったく知らない田中圭さんで。
俳優さん、なんだな、と、その凄さを感じました。
そしてとてもスタイルが良くてかっこよかったです。
ほぼずっとパジャマなのにあのかっこよさ。さすがでした。
芝居を浴びるとはこういうこと
そんな感じで、とにかくお芝居と音楽の圧倒的な迫力に呆然としながら、「すごいものを目撃してしまった…」という感想が第一でした。
その余韻を噛みしめながら、あれはどういう解釈をしたらよいのだろう、鑑賞した方々はどんな風に受け止めたのだろう、と、あれこれ考えながら気付いたら家に着いていました。
物語はおそらく、精神病棟が舞台で、ジョン・ケインは精神疾患患者だと思います。
人が精神を破壊されるほどの辛い記憶と傷は、時が経っても決して癒えることはないということ。
記憶は語られるもの、語られることによりつくられるもので、記憶=真実ではないのかもしれないということ。
その記憶や解釈、結末さえ、語ら"されて"、思い込まされて、そこに行き着かされているのかもしれないということ。
だとしたら、なにが真実?虚構?線引きなんて曖昧なのかもしれないということ。
かつて、精神を患った人間がどのように扱われていたのか、いかに箱に閉じ込められてきたのかということ。
などなど。
そんなことが描かれている作品なのかな…と私は感じました。
自分自身のメンタルの状態や、環境、直面している悩み事などによっても、受ける影響や感じとるテーマは変わってくるようにも思います。
いかようにも解釈出来て、正解はなくて、でも伝えたいメッセージが、役者さんのお芝居によって、言葉を超えた熱でビシビシと投げられてくる。
目の前で、大人が、役者が、全身を使って、魂で叫んで、お芝居を投げかけてくる。
そうやって浴びせられる芝居を、精一杯でこちらも受け止める。
ああ、お芝居って、演劇って、舞台って、こういうものなのか。
そんなことを思わせてくれるような舞台でした。
とにかく、すごかったです。
「また観たい!!」と気軽に言えないくらい、結構な衝撃を受けました。
本当に体力と気力をもっていかれそうな舞台なので、演者の皆さまが無事完走出来ますように、勝手に願っています。
あんなお芝居を何公演もするなんて、役者さんって、本当にすごいなあ。