カルシウム不足を補うサプリ? ふりかけ誕生の秘話
ふりかけの元祖、フタバの「御飯の友」
村上 突然ですがみなさん、最近、ふりかけを食べていますか? ふりかけの発祥の地をご存知でしょうか。実は熊本なんです。「御飯の友」というふりかけが元祖になるんですけど、そのふりかけを、大正2年からとうかがっていますが、100年以上前から作り続けている株式会社フタバの代表取締役・安部直也さんにお話を伺います。
今井 さっそくですが、フタバの「御飯の友」はふりかけの「元祖」なんですか。
安部 全国ふりかけ協会という団体があって、15社ほど加盟してるんですけども、その中で平成6年にふりかけのルーツをたどる話になり、その中で弊社の「御飯の友」が一番古いだろうっていうことで元祖と認定をいただいてます。
今井 このふりかけは、どういう歴史があるんでしょうか。
安部 「御飯の友」は、これを考案したのは薬剤師の吉丸末吉という方なんです。大正2年という時代は、今みたいに食糧がたくさんあるわけではなく、どちらかというと食糧難の時代で、日本人にカルシウムが不足しているのをどうにかして補えないかっていう考えから出来上がってきたのが「御飯の友」になります。
村上 当時の一番最初の頃には試行錯誤があったんだと思うんですけど、当時のものと今フタバさんが販売されている「御飯の友」はほぼ同じなんですか。
安部 意図的に何かを変えようっていうことはしたことがなくて、どちらかというと昔の味を守っていこうとずっとやってきています。当然当時と機械が違うとかはあるんですけど。
村上 「御飯の友」の味ですが、言葉で説明するのは非常に難しいかもしれないですけど、どんな味って説明したらいいですか。
安部 そうですね・・・懐かしい味っていいますか。いりこが主原料で、魚の風味とかっていうのもあるんですけど、ほっとする味という感じです。
村上 他には具体的にどんなものが「御飯の友」には入ってるんですか。
安部 大きく言うと、ごまと海苔とかなんですけど、いりこが原材料のだいたい4割強を占めているんです。先ほどいったように、カルシウムを補うためという意味合いでは、自然のカルシウムがたくさん含まれているふりかけかなと思ってます。
村上 薬剤師さんが開発されたということで、当時は薬局で売ってたんですか?
安部 大正2年に、個人商店としてやられたという記録が残っているんです。日本人の健康を考えて作られたっていうところは薬剤師らしいなと思います。今のふりかけって、結構袋に入ってるものが多いんですけど、当時は八角瓶という、フラスコみたいな瓶に入って売られていたんです。ふりかけって乾燥品なので、湿気が大敵なんです。おそらく薬剤師という職業柄にくわえて、フラスコって口が細いじゃないですか、そこにコルクで栓を閉めていました。空気に触れさせないっていう知恵とか、そういうのもあったんだなって思います。
村上 食品というよりかは、ちょっと薬っていうようなイメージが強いと思いますが、どういうふうに受け入れられていったんですか。皆さんもふりかけを初めて見るわけですよね。
安部 そうですよね。おそらく、今でいうサプリメント、そんな感覚なのかなーっていう気はします。
今井 元祖ふりかけはフラスコに入っていたっていう話、すごくびっくりしたんですけれど、今の「御飯の友」はどんなパッケージ展開があるんでしょうか。
安部 フラスコっぽい形をしてるのが昭和28年ぐらいまでその形で販売されていたみたいです。それが今、皆さんもよく見られる袋に入ったものが今はやっぱり主流になってます。あとはお弁当とかで使われるような小袋タイプもあります。八角瓶についてはフタバの70周年の時に、復刻版という形でまた新たにつくりまして、今もあるにはあります。ただ昔の形と見比べると若干違うんですけど、イメージ的にはそんな感じです。
村上 フラスコの時には湿気が大敵だと。そのための対策があったとおっしゃってたと思うんですけど、小袋になっていく過程でも、やっぱ湿気のことって一緒だと思うんですが、その辺は袋の技術とかで苦労されてたりしますか。
安部 ふりかけの袋は、ぱっと見はただの袋なんだけど、実はあれ3層4層とかになっていて空気をシャットアウトするとか、光を遮るとかという袋の構成が色々あって、すごく昔と比べると進化しています。
村上 フタバさんの方では「御飯の友」以外にもたくさんラインナップを持ってらっしゃるじゃないですか。代表的なところでいうと、どんな種類がバラエティとしては今作られているでしょうか。
安部 シンプルなのでいえばカツオ味とか卵もありますけど、それ以外にも山椒だったり、わさび味、しょうがもあるし、唐辛子もあるし、相当いろいろあります。
村上 ふりかけをよーく見ると、特に卵とかだと黄色いなんか細長い、ちょっとペレットみたいな形のものが入ってるように思うんですけど、そもそもふりかけってどうやって作ってるんですか。
安部 ペレットっぽくなってるのはですね、弊社の加工の仕方でいうと、網のメッシュ、パンチングの穴が開いたものに押し出したあと、切って行くと、あの形になってそれを乾燥させていくと、あのペレットのような感じになります。
村上 なるほど、網の形のものが出てきて、乾燥して小さくなったのを僕らが見てる。その他に、海苔とかほかのものも入ってたりとかって感じなんですね。
安部 海苔とかは普通に裁断したのが入ってます。あと鰹とかはパンチングから押し出すんじゃなくて、ベルトコンベアみたいな上をずっと流しながら乾燥させていくような感じですね。ですから原材料によって乾燥の仕方がちょっとずつ違ってきます。
その味を変えないために
村上 原材料も今いろんなところから調達をしていたりとか、四季折々でも違うと思うんですけど。
安部 例えばですけど「御飯の友」 の主原料のいりこって、年中獲れるわけじゃなくて、獲れる時期があるんです。なのでその時期に大量に仕入れて、ある程度ストックをしているんですけど、いりこ自体も何でもいいわけではなくて、本当は使いたいいりこはコレ、というものがあるんです。でも自然のものなので必ずしもそればっかり獲れるわけではないんです。なので例えば油分が10段階のうち5が一番いいとすれば、極端な話0のものと10のものを仕入れて混ぜて5にするとか、そういったことはしています。
村上 100年前から基本的には変えないようにしているということですが、1年の中でも、年ごとでもやっぱり手に入る材料が違っていくっていう意味では、「変えない」って逆に言うとすごく難しくて、何かを変えていく苦労をされているんじゃないかなって思うんですが、その辺いかがですか。
安部 おっしゃる通りで、そのすごく均一にするっていうのが難しくて、本当に獲れない年とかも最近あったりするんですね。そういう時は正直言えば、いろんな業者さんにお願いしてどうにかして今のところ繋いでは来てるんですけど、じゃあこれが5年後、10年後どうなるかっていうと、正直ちょっと読めない所があります。なので「御飯の友」はいりこを主原料にずっとやってきてるんですけど、そこが葛藤するところで、いりこを使わなかったら「御飯の友」じゃないよねって思う部分と、でもいりこが獲れないなら違うもので作らなきゃいけない。でもそれを「御飯の友」って言っていいんだろうかみたいな、そういう葛藤はありますね。
今井 ふりかけってあまりにも当たり前の存在で、当然この先も食べられるものだろうと思っていたので、そんな葛藤があるとは驚きました。次回もよろしくお願いします。
(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 株式会社フタバ)
次回のおしらせ
ご飯にかけるだけで食の楽しみが一気に広がる「ふりかけ」。もともと、カルシウム不足を補うために熊本の薬剤師によって考案されたものでした。以来、100年以上にわたり「元祖ふりかけ」の味を守るフタバ代表取締役の安部直也さんに、「変えないために代わり続ける挑戦」について伺います。お楽しみに。
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