伝統を守るための、新たな挑戦
自分好みのアレンジを可能にする「ふりかけ」
今井 フタバさんは熊本ですが、日本全国各地にふりかけ屋さんがあると聞きました。いま、ふりかけ業界の方の間ではどのような話が出るんでしょうか。
安部 コロナの前は、年に2回くらい業界の集まりがありました。集まった時は業界としての共通の課題は何かみたいなことを話します。各社同じような悩みがあります。ここ最近で言えばいろんなものが値上がりしてますので、おそらくこのタイミングで会が開かれると、各社さんもそういったところが悩みだねっていう話になるんじゃないかと思います。
村上 なるほど。この数年、コロナの問題がありますが、ふりかけから見た時に、こんな影響があったという部分、何かありますか。
安部 コロナによって家で食べる機会が皆さん増えたと思うんですけど、意外にふりかけは増えていないんです。
村上 増えていないんですか…
安部 ふりかけって手軽に食べれるじゃないですか。それがいいところでもあるんですけど、家にいる時間が増えると、ちょっと今までやらなかったことをやろうかな、ちょっと手の込んだものを作ってみようかなということがあったのかもしれないです。
村上 なるほど、なるほど。 それはしっくりくるような気がします。僕が閉鎖空間で火星の生活だとか、南極の生活とかをやってる時に、安部さんのおっしゃる通り、アレンジという部分がすごくしっくりくるんですね。国際ミッションでふりかけがあるわけではないんですが、テーブルコショーとか、塩とか、いろんなスパイスがどこの基地にも結構いっぱいあってですねで、尋常じゃないぐらい日に日に「みんな大丈夫?健康に悪いよ」って思うぐらい、コショウならコショウをかけるようになっちゃうんです。最初のミッション数日では「ぱらっぱらっ」くらいだったのが「ぱらっぱらっぱら」になり、なんかしまいには「どさどさ」かけるようになる。やっぱり日々同じ生活だからこそ、最後の最後に自分でアレンジするっていう欲求がすごく密接に関わってる気がしています。そういった意味ではふりかけに行かずともアレンジってものは、ますますコロナ禍も含めて、ニーズとして挙がってきたのかなみたいな感じがしました。
安部 そうかなと思います。前回もお話ししたように、お米の消費量が減ってるのに、ふりかけはそんなに減ってないっていうのは、ご飯じゃない他のものにかけるというアレンジをしているところであり、アレンジをしてより自分好みに近づけるとか、気分転換をするという意味では、食を通して色んなアレンジができるのかなって思います。
村上 安部さんの周りで、ふりかけという世界の中に根を張ってやっていくなかで皆さん、どんなとこにやりがいを感じられていると思いますか。
安部 そうですね。誰もがお客さんから喜びのお声を頂くのが嬉しいことだとは思うんですが、やりがいっていう意味で言うと、私がフタバで学んだことになるんですが、「いりこ」なんですね。また「御飯の友」に戻るんですけど、私にとって、いりこはどれもいりこだったんです。フタバにはもう30年、40年といりこを見てきた方がいて、その人と一緒にいりこを見た時に、私にはどれも一緒に見えたんです。でもそれをずっとやってるうちに、だんだんと違いがわかってきて、同じいりこでもこんなに違うんだと思いました。ふりかけは、それぞれのセクションで専門的なことをやっている方がいるので、そこにやりがいや責任感を持っています。自分がそこで選ぶことでちゃんとした製品が出来上がります。逆にそこで選択ミスをすると違ったものができてしまう。そういう職人気質があると思います。
私が熊本に来て14年ぐらい経って、「御飯の友」がこれだけ認知していただいていることが、作る側にとってはいい意味でのプレッシャーで、それを自分がやり遂げることで消費者の方に伝えることができるところは、やっぱりやりがいや、よりどころなのかなっていう気がします。
今井 安部さんはいりこの見分け方から学ばれた話を伺いましたが、新しい社員の方がどんどん入って来られた時に、どういったところを伝えることを重要視されてるんでしょうか。
安部 そうですね。基本的な部分、たとえば機械の操作とかはスタートを押してストップを押すんだよみたいなマニュアル化できるんですけど、先ほどのいりこが使える使えないっていうのは、なかなか文章で表現するのが難しい。私自身がそうだったように、やっぱりそれはもう経験してもらうしかないのかなというところでやってます。また前回もお話しした、四季によって乾燥させる温度も違うっていう部分も、色々経験しながら、失敗もするかもしれないけど、そういうのを繰り返しながら身につけていくものなのかなと思ってます。
村上 新人の方々はどういうところで苦労されていますか。つまずく部分とか。
安部 私たちも伝えることは伝えるんですけど、伝えきれない部分もあったりするんですよね。そうした時に、言われた通りにやってるのに思ったような製品にならない、なんでだろうって。私自身もそうだったんですけど、すごく苦労しましたし、いまだに現場の人間は苦労してる時期もあると思います。その特に気候が大分変わってきているので、5年前10年前と同じようなやり方でいいかというと、そこは違うと思うんです。
吉丸さんがもし今この時代に生きてたら、どんなふりかけを作るんだろう
村上 ちょっと違う質問ですが、そうなってくると、いりこの中での調整じゃなくて、根本的に変えるみたいな話になっちゃうかもしれないことも、多分すでに考えてらっしゃるんじゃないかなって思うんですけれども、具体的にありますか。
安部 実際こうしようとか思ってるわけではないんですけど、まぁおそらくそういった時が来るだろうとは思っています。「御飯の友」でいえばいりこの部分をどうするのかっていうのもありますけど、それ以外の原材料に関しても今は輸入されてくる食材が結構ありますけど、じゃあ本当にそこに頼っていていいのかなって、どこまで出来るかどうかやってみないと分からないですけど、やっぱり日本の地産地消じゃないですけど、そういったものを原料として安定供給できるように、とか思ったりもします。まあいろんな問題があり、すぐにできることではないんですけど。
村上 ふりかけから時代まで見えるとは・・・すみません、ゲストにお呼びしていながら改めて感じました。ちょっとまた似た質問になってしまうかもしれませんが、これからの100年ふりかけはどうなっていくのか、仮定の話で構わないですけど、食卓の中でどう生かされていて、フタバさんとしては次の100年をどういう風な姿勢で続けて行こうとお考えですか。
安部 会社として100年続いてきた歴史を次の世代にもしっかり繋いで行きたいし、「御飯の友」を守っていきたいっていう部分がまずあります。そのうえで、「御飯の友」は日本人のカルシウムの不足を補うために作られたもので、当時は食糧難の時代でした。今はどちらかというと飽食の時代って言われています。ただそういった時代でありながら、食品ロスであったり栄養の偏りとか食に関する問題があります。なので、吉丸末吉さんがもし今この時代に生きてたら、どんなふりかけを作るんだろうなと思い、実は「YOSHIMARU」というブランドを作って、去年の5月6日にスタートしました。5月6日は「ふりかけの日」なんですよ。吉丸さんの誕生日なんです。そういうのをつくり、これから色々作っていきたいなと思っています。
今井 現代の食をめぐる問題に、日本のふりかけが再び解決策の一つになるかもしれないと考えると、すごく夢のある商品づくりになりそうですね。
(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 株式会社フタバ)
次回のおしらせ
ご飯にかけるだけで食の楽しみが一気に広がる「ふりかけ」。もともと、カルシウム不足を補うために熊本の薬剤師によって考案されたものでした。以来、100年以上にわたり「元祖ふりかけ」の味を守るフタバ代表取締役の安部直也さんに、「変えないために代わり続ける挑戦」について伺います。お楽しみに。
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