工業蒸留への道④ 〜蒸気圧とは〜
前回の投稿では、相対揮発度と液相部のモル分率から気相部のモル分率を算出可能であることを説明しました。
今回は、相対揮発度を求める前段階として、蒸気圧について書きたいと思います。
蒸気圧とは
蒸気圧とは、液体から蒸発した気体の圧力のことを指します。
例えば、真空容器中に液体を置いた場合、液体が一部気化して、気体が発生します。
すると、気体の発生により、容器の圧力が上昇します。
そして、一定時間が経過すると、気化する分子の数と液化する分子の数が吊り合う状態となり、圧力の上昇が止まります。
このときの圧力が蒸気圧となります。
蒸気圧と沸点の関係
温度が上がると蒸気圧も上昇します。
これは、液体の温度が上昇すると気化する分子の数が増加するためです。
そして、蒸気圧が外部の圧力と等しくなると、液体の内部からも蒸発が始まります。
これが沸騰であり、このときの温度が沸点となります。
つまり、蒸気圧と沸点は以下のような対比となります。
蒸気圧
・温度により変化
・物質の圧力=蒸気圧で沸騰開始
沸点
・圧力により変化
・物質の温度=沸点で沸騰開始
以上のように、蒸気圧と沸点は似たような性質について表している数字なのですが、蒸気圧については後述するように他の数式に展開可能となるような関係式が存在しますので、化学工学の計算では蒸気圧を用いる形となります。
混合物の蒸気圧はどうなるのか
次に、成分Aと成分Bの混合物において、蒸気圧がどのような挙動になるかについて記載します。
混合物の蒸気圧は各成分の分圧の合計となります。
$$
P=p_A+p_B
$$
$${P}$$:全圧(=混合物の蒸気圧)
$${p_A}$$:成分Aの分圧
$${p_B}$$:成分Bの分圧
分圧とは、成分ごとに全体の圧力を分割したもので、理想系(⇔分子間相互作用が無視できる)の場合、以下の式で算出されます。
$$
p_A=Py_A
$$
$${p_A}$$:成分Aの分圧
$${P}$$:全圧
$${y_A}$$:成分Aの気相中のモル分率
液相組成と分圧の関係
上記は気相中の組成と分圧の関係式ですが、理想系の場合、ラウールの法則という式も成り立ちます。
$$
p_A=P_Ax_A
$$
$${p_A}$$:成分Aの分圧
$${P_A}$$:成分Aが単独で存在する時の蒸気圧
$${x_A}$$:成分Aの液相中のモル分率
この式は液相中の組成からも分圧を求めることが可能であることを示していきます。
次回は、今回説明した式を用いて相対揮発度の算出を行なっていきます。