
『ヘルスモニター』石田夏穂
文藝2024年春号(バックナンバー。すでに夏号は出ています)
生きている身体の延長に読むことや書くことがあるのだと信じています。
「バルクアップ!プロテイン文学」と銘打たれた特集では、いろいろな側面から身体と文学にアプローチしていて、楽しく読みました。
そのなかからひとつの作品をご紹介します。
『ヘルスモニター』石田夏穂
自分の体調だけでなく気分の浮き沈みの原因まで、最新機器のヘルスモニターの表示する値を見て決める主人公長山。
長山は上司Pの激しいパワハラ(Pと表現される。Pとはいろいろ示唆的な名である)を受けています。でもヘルスモニターは気がふさぐのはカルシウムが足らないからと表示してくれる。罵られて血圧や心拍数が上がるとスポーツをがんばっていると勘違いする。
「ヘルモニは「顔色」など見ない。そんなフワッとしたものは」
ヘルモニに全面的に頼るようになっている長山はすべてを「シチュエーションというよりコンディション」(つまり栄養不足など)のせいにしています。
体重、体脂肪、睡眠の質、歩数など、デバイスを使って数値によって「健康」管理している人はわたしの周囲にも多いです。わたし自身は体重計さえ持っていません。実際に市場で今どんなガジェットが出回っているのかも知りません。体調が悪いときもありますが、適当に運動し食べ眠っています。健康産業やガジェット類の販売戦略に屈したくないし、そもそも面倒くさいしお金もないからです。
しかし同時に、数値を参考にすることへの恐れみたいなものがいつもありました。
ヘルモニだけを拠りどころにする長山は、「PのP」や、同僚の気遣いなど、相手が自分に差し出す人間感情に対して、微妙に狂った反応を見せ始めます。ここからの展開が怖くて面白い!
わたしが数値に対してぼんやりと抱く不安が何であるのか、主人公の行動を通して少し見えたような気がします。