お客さん、いないんだもん。
その老人は、吉田拓郎の「唇をかみしめて」を歌い出した。その歌を歌うまでのつまらないMCが長すぎたので、トイレに行った。でてきてからも喋っていた。誰も笑ってない。だって、お客さんいないんだもん。
「エ・リィー♪ ウォオオベイベー♪ はぁれ?」入れ歯がフロアに落ちた。慌てて、口に入れようとする老人。酔っているせいか、中々、口に入らない。急に一方に走り出した。
コロナまき散らすなよっと思ったが、俺が考える事はない。だって、お客さんいないんだもん。
「隣の町の」また、歌い出した。懲りないわぁ。この老人。また、入れ歯が飛んだ。コントかよっ。唾液も巻き散らかしてるよなぁ・・・。
「オアイソ。早くして」
そそくさと店を出た。
街は、クリスマスだ。寒さが身に染みた。
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