商品としてのプロゲーマーをより魅力的にするための戦略と施策
ビジネスとしてesportsのチームを運営している、つまりプロチームの経営をしているなら、売上を得なければならない。商品となるのは、もちろん所属選手(プロゲーマー)だ。では、より大きな売上を得るために、商品としてのプロゲーマーの魅力を高めるにはどうすればいいのか?
今回は、そのための戦略と施策についてまとめていく。
なお、考察にあたっては複数のチームと選手を参考にした。記事の内容はチーム全体やストリーマーなどにも適用できるだろう。
【目次】
選手が持つリソースは3つ
誰にファンになってもらうべきか
ターゲットの可視化は必須
まずは知ってもらって認知層を拡大する
認知層には印象づけと役立つコンテンツを
興味層には控えめにフォローをお願いする
濃い情報発信でフォロワー層を気軽なファン層に
気軽なファン層から熱心なファン層へ
熱心なファン層はお金を使いたがっている
誰にどんなコミュニケーションをするかが大事
※プロゲーマーと選手という用語は特に区別せず、同義語として扱う。チーム、選手、ゲームといった用語が一般名詞なのか固有名詞的に使用しているのか分かりづらいが、適宜読み替えてほしい。
※「観られやすい動画の作り方」や「いいねされやすいツイートの仕方」など、施策のより詳細なノウハウついてはあまり言及せず、それぞれの施策をどう展開するかについて述べる。
※「商品としての」という表現に異論があるかもしれないが、たんに便利な概念として利用しているだけで価値判断ではない。
選手が持つリソースは3つ
この記事の前提として、「魅力的にする」という意味を明らかにしておく。これはお金を出すに値する、プロゲーマーが有するリソースのことだ。リソースの価値を高めることで商品としてのプロゲーマーはより魅力的になる。これには3つある。
【1 ノウハウ】
ゲームに関するノウハウにより、チームと選手は大会でファイトマネーや賞金を得ることができる。また、チーム間で金銭トレードを行なう際にも重要となる。加えて、ティーチングによって講師料を得られる。
ノウハウの獲得は、チームや経営者が環境やモチベーションのサポートをするものの、選手自身の努力とセンスが大きな影響を与える。ノウハウは選手にとって最も大事だが、プロゲーマーであれば当たり前に求められることであり、ノウハウが(プレイヤー平均より)低いプロゲーマーはいないと言っていいだろう。
【2 人気】
下記の集客力と似ているが、人気は個人を対象にしたリソースなので区別しておく。人気が高い(人の好意や評判を得ていて応援したいと思われている)とドネーションやサブスクリプション、関連グッズの販売によって売上を作ることができる。
人気の獲得は選手自身の努力とセンスによるところもあるが、チームが戦略的に介入できる領域でもある。
【3 集客力】
集客力は企業に対するリソースであり、スポンサードの獲得において重要。人気と似ているが、スポンサードを検討している企業の担当者がある選手やチームに好意を持っているだけでは会社としての決裁は下りにくいので区別した(自社にとってどんな価値があるのかを問われ、企業的には集客力が検討材料になる)。純粋に応援するためだけにスポンサードする企業もあるかもしれないが、例外だ。
基本的には人気が上がれば集客力も上がるので、両者は強く相関していると考えていい。
【売上の多くは人気と集客力による】
プロゲーマーが有するリソースはノウハウがすべての土台となり、ノウハウが高いほうが人気と集客力も高められる。そして人気と集客力には正のフィードバックが作用する。
チーム経営に充分なファイトマネーや賞金を得られるならノウハウだけ高めていけばいいかもしれないが、国内では安定的に得られる環境がまだ限られている。そのため、どのプロチームも個人によるドネーション(サブスクリプション)やグッズ購入、企業によるスポンサードを求めている。いずれも安定的に大きな売上を得られるからだ。
ノウハウを高める方法や知見はチームや選手によってそれなりに公開されているし、人気と集客力を高める方法とかなり異なる戦略と施策が必要となる。ということで、この記事ではすべてのプロゲーマーは一定以上のノウハウ(とプロ意識)を持っていると仮定し、ノウハウを高める方法については扱わない(ゆえに施策にはその強みを活かす)。
また、目標・ビジョン設定やブランディング(ブランド戦略)についてもほぼ言及せず、それはひとまずできていると仮定して、人気と集客力を高める戦略と施策について整理していく。
※プロゲーマーは複数タイトルでプロになるのが相当難しいので、複数タイトルにわたって活躍できるストリーマーと比べるとファンの数は相対的には劣るだろう。だから、プロゲーマーならではの強みはやはりノウハウが柱となる(この記事では言及しないが……)。
誰にファンになってもらうべきか
人気と集客力は何によって決まるのかというと、端的に言えばファンの数だ。ファンの数が増えれば人気と集客力が高まり、個人によるドネーションや企業によるスポンサードが増えて売上が上がっていく(営業も必要だが)。つまり、ファンの数が増えれば売上が上がる。
よって、ファンの数を増やすことが重要な目標となる(実際には具体的に○人増やすと設定するのが大事)。ファンを増やすには、ゲームを知っている人やプレイしている人をターゲットにしたほうが効率がいい。そのゲームのレジェンドになれば話は別だが、土台の小さい選手をゲームを知らない人に訴求しても、興味を持ってもらえる可能性は限りなく低い。
なので、大前提としてゲームを知っている人およびプレイしている人が最初に攻略すべき大きなターゲットとなる(ただ知っているのとプレイしているのではゲームへの関心度が全然違うが、簡単のため区別しないでおく)。
ゲームを知っている人のうち、選手に対する関心度としては「無認知」から「熱心」までがある。図にするとピラミッド状に6段階の状態に分けられる。下位は多数で、上位は少数だ。
「無認知層」は選手を知らない人たち。
「認知層」は選手を知っているが、興味はない人たち。
「興味層」は目に入ってきた選手の動向には興味を持っている人たち。
「フォロワー層」は選手のことを積極的に知りたいと思っている人たち。
「気軽なファン層」は大会で選手を応援し、生放送や出演番組を観てくれる人たち。
「熱心なファン層」は選手のグッズを購入し、ファンであることを誇りに思う人たち。
熱心なファン層の数が多いほど、商品としてのプロゲーマーの魅力は高くなる。ファンはドネーションだけでなく、スポンサーの商品も買ってくれる可能性が高いからだ。しかし、ファンになるということは個人が持つ時間やお金といった大事な資源をたくさん使うということ。フォロワー層と気軽なファン層の間には大きな壁があるだろう。そのため、「ファンを増やそう!」と意気込んでいきなり無認知層にアピールするのは無謀だ。
段階を踏むことが大切である。今回の目的はファンを増やすことだが、熱心なファンを増やすには気軽なファン層を増やさなければならない。そのためにはフォロワー層を増やす必要がある。フォロワー層を増やすには興味層を増やし、興味層を増やすには認知層を増やす。認知層を増やすには無認知層に選手の存在を知ってもらわないといけない。
ただし、チームの状況によってどのターゲットを増やしたいか(狙うか)は充分に検討すべきだ(なんとなくどこかの誰かに向けた施策を行なうのはもったいない)。今回は新参選手の魅力を高めるべくファンを増やしたいので、まずは無認知層を認知層にしていこう。そのあと興味層、フォロワー層を増やしていくことになる。
基本的に、下位層に対する施策は上位層に対しても有効である(その逆は真ではない)。
ターゲットの可視化は必須
さっそく具体的な施策について考えたいところだが、その前にターゲットの数を可視化しよう。可視化しなければ戦略や施策を評価できないからだ(絶対数でなく相対数でもいい)。可視化のための方法とツールは下記が考えられる。
※今回はできるだけコストを安く抑えたいので高価なツールやサービス、広告は避ける。
無認知層についてはプレイヤー人口におおよそ近しいと考えておくのが妥当だ。具体的な数字は公表されないことが多いので分かりにくいが、ゲームのDL数や販売本数、売上と推定客単価などから推測しよう(ゲーム人口がファン数の実質的な上限になってしまうが、プロならではの強みを活かそう。つまり大会出場だ)。
認知層を推定するのはかなり難しい。アンケート調査をするくらいしか思いつかないが、そこまで追求しなくてもいいと思う。プレスリリースなどのパブリシティ掲載数やその反応を見るのがいいか。Twitterのツイートインプレッションなども参考になるかもしれない。
興味層は大会のチャットやTwitterでの言及数、選手に関連するニュースやツイートのシェア数などで計測するのがいいだろう(できれば人の自発的な行動によって増加する指標がいい)。また、動画の再生回数も参考になる。
フォロワー層はTwitter、YouTube、Twitch、OPENREC.tvなどのフォロワー数でわりと正確に計測できる。公式サイトのユニークユーザー数もいい指標ではないかと思う。
気軽なファン層はYouTube、Twitch、OPENREC.tvなど生放送の同時視聴者数が参考になるだろう(ニコ生などの合計視聴者数でもいい)。選手やチームのツイートに対する応援リプライの数や、お知らせを配信するLINE@の友だち数も目安となる。能動的なコミュニケーションをしてきたり、プッシュ通知を受け取ったりしてくれる人はファンと言っていいだろう。ちなみに、この層はまだそこまでお金は落としてくれない。
熱心なファン層はファンクラブやメルマガ的なコミュニティの会員数で計測するのが一番いい。国内のプロチームはほとんど会員組織を作っていないようだが、適したサービスもあるのでファン層の規模が大きくなってきたら利用をお勧めしたい(特別なコミュニケーションもやりやすい)。この層は「支援してね」と直接伝えたら相応のお金で応えてくれる層だ。
チームによって適した計測方法は異なるので上記は一案であり、別の計測方法がふさわしい場合もある。また、もし諸々の広告(YouTubeやTwitterなど)が使えるならさまざまなデータが分かるので便利。
まずは知ってもらって認知層を拡大する
では、先ほどのピラミッド図に従い、下のターゲットから順に訴求していこう。最初に無認知層に存在を知ってもらう施策を検討する。施策はチームまたは選手が適宜行なうものとする。
どこに無認知層がいるのかは分かりづらいが、そのゲームのプレイヤーがいる場所を考えればおのずと見えてくる。無認知層は大会の出場者・観戦者、ゲームメディア(攻略サイト含む)の読者、有名プレイヤーやストリーマーのフォロワーやファンに大勢いる。それぞれに対する施策は下記のとおり。
【1 大会に出場する】
大会の視聴者の中には、特定のチームや選手のファンではないが大会自体が好きだったりトッププレイヤーのプレイが観たかったりする人が相当数いる。そういう人たちに選手の存在を知ってもらうのが重要だ。もちろん出場者に対しても訴求できる。そもそも大会はプロゲーマーにとって最も重要な存在証明の場なので、とにかく公式非公式問わず大会に出まくろう。
大会中にプレイ以外でアピールするのは難しいが、運営者やキャスター陣にチームと選手の情報を送っておくのは有効かもしれない。特に試合間の待ち時間には実況解説者の話すネタがなくなることがあり、そのとき取り上げられる可能性がある。
大会の少ないゲームはそもそもプレイヤー人口自体が少ないと思われるので、プロとしてやっていくのは難しいかもしれない。また、大会に出場することはシーンを盛り上げ(てプレイヤーを増やしたり既存プレイヤーの満足度を向上させ)たいゲーム会社に対する大きな貢献にもなる。
【2 プレスリリースを送る】
ゲームメディアの読者には無認知層がいるので、チームは積極的にプレスリリースを出したほうがいい。ニュースとして取り上げられるかどうかはネタによるので確実ではないが、新メンバーが加入したこと、スポンサーを獲得したこと、チームの番組を配信すること、大会に出場するメンバーが決まったこと、ほかにない取り組みを始めたことなど、新規性や希少性など人目を引くネタであれば積極的に。
メディアへのメールは丁寧に誠実に、そして一斉送信ではなく個別で送ること。相手との1対1のコミュニケーション機会と捉えよう(無視されてもめげない)。関連メンバーのプロフィールやコメント、写真は必須、チームロゴなど記事のトップ画像に使える画像も送っておくとありがたがられる(画像は長辺2000pxもあれば充分)。また、個別取材も可能だと併記しておくといいだろう。初めて送る場合は掲載されないことも多いが、機会があるごとに送れば相手もだんだん気になってくる。
大手ゲームメディアではよほど大きなネタでないと取り上げられにくいので、個人や非営利で運営しているメディアやブログ、そのゲームの攻略系・まとめ系サイトにもプレスリリースを送ることをお勧めする(tokyo esportsにも取材案内などが送られてくることがある)。
基本的にはいろいろなところに送るほうがいいが、相手側のカラーやイメージがこちらの送る情報とマッチしているかどうかは重要だ。また、煽り記事が多かったり著作権を侵害したりしているような、チームや選手のイメージを損なうメディアは避けよう。
【3 インフルエンサーに働きかける】
昨今インフルエンサーマーケティング(SNS上の影響力のある人による宣伝)が定着しつつあるが、ここで議論するのは広告として依頼するものではなく、インフルエンサーにチームや選手のことを気にかけてもらうための方法だ。これはチーム、もしくは選手個人でやってもいいと思う。
Twitterを例にするが、選手がプレイしているゲームに通じていて情報発信に積極的で、フォロワーが1000人以上いる人の非公開リストを作ろう(競技シーンに関心がある人ならなおいいし、フォローしてもいい)。その人たちがゲームやチーム、選手に関連するツイートをしたらリツイート/いいねする。そうするとさり気なく存在を認識してもらえる。
そうすれば、近いうちにツイートで紹介してくれたり、あるいは関連ニュースをリツイートしてくれたりするようになるかもしれない。ともすればインフルエンサーがフォロワーやファンになってくれるかも。すると、その人のフォロワーに選手のことを知ってもらえるようになる。仲良くなれるならなおいい。
直接「フォロワーに紹介してください」なんて言っても引かれるに決まっているので、じっくりと中長期的に取り組む。ただし、あまり頻繁に、粘着質にやってはいけない。ほどほどに、さり気なく、が大事だし、どのツイートをリツイート/いいねするかはちゃんと選ぼう(自信ありげなツイートならよし)。
【マスは狙わない】
無認知層への訴求で最も手っ取り早いのはマス広告だ。テレビCMを流せば一気に知ってもらえる。しかし、ファンを作りたいなら薄いコミュニケーションしかできないマス広告は相性が悪い。そもそもそんなにお金もかけられない。それよりも、上記3つのような地道で小さなことを数多くやるほうがファンになってもらう道筋に乗せやすいだろう。
認知層には印象づけと役立つコンテンツを
次に、選手を知ってくれたがまだ興味はない認知層を興味層にする施策を考える。ここで重要なことはいかに興味を持ってもらうかという最初の一歩。普段生活しているときも同様だが、知っているだけの人からいきなり親しげなコミュニケーションをされると気持ち悪い。なので、まだ選手の個性は全面に出さず、それ抜きでも相手に興味を持たれる工夫が必要だ。
【1 エゴサ&お礼参り】
まずなにより、エゴサしよう。そして言及やシェアしてくれた人のツイートをリツイート/いいねする。さっそくフォローしてくれた人にフォロー返しやお礼を言ってもいい。とにかく何らかの反応をしてくれたことに対して、こちらも反応することが大事だ。これもインフルエンサーに対してと同じように、やりすぎると引かれる。
ただやはり、自分のツイートに反応があって嬉しくない人はほとんどいないだろう。そういう感情を選手の名前と結びつけられれば、自然と興味を持ってもらえるようになるはずだ。
【2 役立つコンテンツの発信】
選手のことを知ってもらい、興味を持ってもらいたいと思うあまり、認知層に対してインタビューや実況プレイなど選手の個性面を強烈にプッシュしてしまうことがある。だが、先にも書いたようにこれはNG。なぜなら、認知層は選手自身の情報などまったく興味がないからだ。
では、認知層が興味を持つ情報とは何か? ゲームの攻略情報やデバイスのレビューである。言いかえると、その人がゲームをプレイするうえで役に立つ情報。これはプロゲーマーなら誰でも持っているノウハウなので、記事や動画、あるいはツイートで発信できるだろう。そのゲームの実力が強い説得力となる。
役立つコンテンツを発信する人として興味を持ってもらえれば、選手自身にもおのずと興味を持ってもらえるようになる。役立ちコンテンツの中にひっそり選手の個性も混ぜておくのが大切だ。
【3 お勧めを紹介する】
2に関連するが、選手が好きなプレイヤーやお勧めしたいものを認知層に対して紹介するのも有効だ。「この人の紹介するものは信用できる」と思われるようになれば、間違いなく選手自身にも興味を持ってもらえる。
選手のことを知ってもらいたいのにほかのプレイヤーを紹介するのは奇妙に思えるが、紹介した人が気にかけてくれて、フォロワーに選手のことを紹介してくれるようになるかもしれない。
一方的に選手の情報を押し出すより、こうした仕組みを作っていくほうが最終的には効率がいい。無認知層への訴求手段としても役立つだろう。SNSでの事務的な情報発信は少なめに。
【役立つコンテンツと雰囲気を伝える】
認知層への訴求で重要なことは、選手自身の個性や情報ではなく、選手のことを知らなくても楽しめる(が、その選手ならではの)コンテンツを発信し、興味を持ってもらうようにしよう。選手のことは雰囲気程度でOK。
当たり前のことだが、コンテンツを発信したらサイトやTwitterなどで告知する。そもそも露出を増やさなければ知ってもらえない。また、コンテンツの作り方や内容については見てもらうための工夫が必要だ。
興味層には控えめにフォローをお願いする
興味層はその選手が発信する役立ち情報があれば見るし、選手の動向も気になりつつある。なので、より積極的に選手自身の情報を発信する(大会に出場することやその結果など。大会後のインタビューはまたとないチャンス)。そして普段発信しているコンテンツの中で「よかったらフォローしたりチャンネル登録してね」と控えめに入れておけば、自然とフォロワー層になってくれるだろう。
もしこの層をターゲットに生放送を行なうなら、「何曜日の何時」と配信日時を固定するのがいい。興味層はいつやるのか分からない生放送を見られるほど暇ではないし、逐一配信情報をチェックしていない。
これでようやく、選手のことを全然知らない人に「フォローする」「登録する」というボタンを押してもらうことができた。ここまで地道に施策を積み重ねてきた結果である。
フォロワー層を増やすということは、選手のことをもっと知ってもらい、気軽なファン層になってもらうためである。だから、「フォローしたら○○をプレゼント」みたいなキャンペーンはしないほうがいい。
プレゼントキャンペーンは訴求力があるかもしれないが、プレゼントにしか興味がない人がいきなりフォロワーになってしまっても、フォロワー層向けのコミュニケーションにはついてこれない。結局ファンになる前に離れてしまうだろう。チームや選手に全然興味を持っていない人がフォロワーにいるというのは、実はよくない状況だ。数字の魔性に騙されてはいけない。
濃い情報発信でフォロワー層を気軽なファン層に
次に、フォロワー層を気軽なファン層へと導く施策を考える。基本的にはフォロワー層に対してより濃い情報、より密度の高いコミュニケーションを行なうことが要となる。選手対フォロワー層だとどうしても1対多になってしまうが、できるだけ1対1で関係を作ることを意識しよう。
その中心となるのはリアルタイム性が強い生放送とSNSだが、この段階ではチームよりも選手自身の言動が重要となる。具体的にどうすれば、気軽なファン層を増やしていけるだろうか。
【1 気持ちを発信する】
最近のプレイはどうだったのか、試合の結果をどう感じているか、ゲームに対してどう向き合っているのか、。そういったゲームに関する選手の気持ちを発信しよう。役立ちコンテンツのような客観的な情報よりも主観的な気持ちを伝えることで、選手のことを知ってもらう。ただ、ゲームから離れすぎると興味を持たれにくいので、あくまでゲームをメインにしておく。
【2 質問・対話する】
発信するだけでなく、「どう思いますか?」などフォロワー層がチャットやリプライを送りやすい形で質問を投げかけよう。生放送でゲームをプレイしているときも、状況ごとにどう感じたかを示し、視聴者はどうかと尋ねる。とにかく選手側から問いかけることで、フォロワー層が自分から選手に対して行動(発言など)しやすくすべし。質問してください、話しかけてくださいというスタンスではダメだ。
フォロワー層(というか大多数の人)はフラットな状態では自分から他人に絡んでいこうとしない。しかし、きっかけがあれば行動してくれる。質問箱のような質問系サービスを利用してもいいだろう。自分の発言を選手が受け止めてくれるのは、フォロワー層にとって印象的な体験となる。もちろん素早いレスポンスも欠かせない。
【3 名前を呼ぶ】
2に関連するが、特にチャットやリプライに応えるときは相手の名前を呼ぼう。日常生活でも同じように、気になっている相手に名前を呼ばれ、覚えられることはとても感情が高ぶる。フォロワー層は「自分の存在がきちんと知られている」と感じたとき、気軽なファン層に至る。
また、生放送内で視聴者と親しげにコミュニケーションしていると、初めて観に来た人がその輪に入れない可能性がある。「初見大事に」の精神で、初見の人がチャットしやすい雰囲気を作るのがいいだろう。選手がそういう雰囲気を作ることで、常連の人も場を独占しようとせず、初見の人を仲間にしようとしてくれるはず。
【おおげさなことは必要ない】
上記3つはまったくおおげさなことではないし、普段の生活で人と人が接するときには当たり前のように行なわれていることだ。それがオンライン、特に1対多になると実践が難しくなるので、日常において初対面の誰かとコミュニケーションする感覚でフォロワー層と接するように心がける。
選手にはプロ意識が必要だが、それは「プロ」と「その他」の間に壁を作るためのものではない。圧倒的なカリスマがない限り、身近さがファンになってもらうための大事な要因だ。
選手インタビューも、この層に対してならそれなりに有効に機能するだろう。
気軽なファン層から熱心なファン層へ
気軽なファン層は、すでに選手にかなりの好意を抱いており、大会に出場すれば応援してくれるし、日々の言動にも関心を持っている。ここに至ってようやく、(ゲーム以外に関しても)選手自身のことに共感されるようになる。苦しんでいる状況を伝えれば、心配したり励ましたりしてくれる。選手のために何かできることがあればしてあげたい、と思い始めている。
そんな気軽なファン層を熱心なファン層にするには、選手と同じ空間や同じ体験を共有してもらうのがいい。これにはより距離の近いコミュニケーションが鍵となる。
【1 一緒に遊ぶ】
オンラインでできるコミュニケーションといえば、やはり一緒にゲームを遊ぶこと。同時に遊べる人数は限られるが、だからこそ「一緒に遊べた」という特別感を味わってもらえる。抽選や先着から漏れた人は不満を抱くが、そのフォローも忘れてはいけない。
ゴースティングのような問題があるかもしれないが、そんなことをする人はファンでも何でもないので厳しく対処しよう。モラルやマナーを守れない人はどんどん切っていかないといけない……が、選手が強権を発動しすぎるのもよくない。
アンチに対しては、最初からブロックするよりまず「どうしてそんなことをするのか」と直接尋ねてみるのが意外と有効だ。それで和解できればいいし、話が通じなければブロックしよう。
【2 ファンミーティング】
ファンとの交流と言えばファンミーティング。オフラインで実施するチームも増えてきたが、その敷居は高い。もちろんやれるならやるに越したことはないが、オンラインでやってみてもいいだろう。チーム主導で実施するネット番組がそれにあたる。
ファンにとって選手に会えることはとても嬉しいことだが、自分と同じファンと友達になれることも大きな魅力だ。ファンミーティングをする際、選手との交流だけでなく、ファン同士の交流を促すことで、気軽なファン層はもっとこのコミュニティにいたいと思ってくれるだろう。
【3 優待する】
ファンにとって、自分がファンであることを認められる体験はほかに代えがたい。それはつまり、ファンであるがゆえの優待を受けることだ。例えば、生放送中に突発的なプレゼント企画を行なったり、非公開のファンミーティングに招待したり。選手にとってその人が特別だと示す施策が欠かせない。
先ほど熱心なファン層の可視化にファンクラブやメルマガが有効だと書いたが、こちらを有料制にし、気軽なファン層向けの無料ファンクラブを用意してもいいと思う。チームや選手の日常風景やインタビューなど、そこに加入していないと受け取れないコアな情報で特別感を演出しよう。
【お金を出さなくても応援できる仕組みを】
気軽なファン層までは、チームと選手がおもてなしをする側である。相当な投資が必要であるが、気軽なファン層はまだお金を出してくれないので、お金が必要ない形で応援できる仕組みを作るのがいい。
いくつかのチームではTwitterのハッシュタグ(#○○WINなど)を使っている。こうした施策では、みんなで一緒に応援しているという、チーム、選手、ファン同士の一体感を感じてもらうことができる(ツイートにリアクションするのもお忘れなく)。
熱心なファン層はお金を使いたがっている
さて、こうして熱心なファン層が誕生した。気軽なファン層とは異なり、熱心なファン層は応援や支援を形にするために積極的にお金を使いたがっている。だから、ドネーションやグッズ販売、スポンサーの商品への誘導など、お金を使える機会を作ることは必須だ。だが、みんなの愛を収奪するような仕組みはNG。あくまで愛に応えるような価値あるものを提供し、その対価としてお金を受け取ろう。
ファンのお金がどのように選手のために使われたかも公開するといいかもしれない。自分のお金が選手のためのデバイスに、健康的な食事に、快適に過ごすための設備に、体を鍛えるトレーニングに、あるいは海外遠征などに使われたと知るだけで、熱心なファン層は満足感を得る(ふるさと納税のようにドネーションのお金の使途を指定できたら面白い)。
また、熱心なファン層にファンでい続けてもらうための施策は、基本的には気軽なファン層への施策と同じでいいだろう。もしファンクラブを立ち上げるなら、有料会員と無料会員を分け、有料会員によりよい優待をプレゼントするという方法が考えられる。
あるいはネット番組の出演営業や企画提案、ゲームメディアや一般メディアへの取材を打診し、露出を拡大するのもいい。選手が大会以外でも活躍しているのを見るのはファンにとって嬉しいことだ。
当たり前だが、プロゲーマーは大会で活躍することが欠かせない。それがファンへの恩返しにもなるだろう。
誰にどんなコミュニケーションをするかが大事
以上、商品としてのプロゲーマーの魅力を高める戦略と施策についてまとめてきた。これらを同時並行的に実施していくことで、ファンを増やせるのではないだろうか。継続的に、計画的に行なうことをお勧めする。
当然、向上した魅力をもって販売活動や営業活動をしなければならないので、ここまでの内容ではある意味で片手落ちだ。販売活動はECのノウハウに等しいので参考になる資料は探せばすぐ見つかるだろう。だが、プロチーム・プロゲーマーからの企業への提案については公開されているノウハウがあまりないので、機会を見てまとめたい。
なお、単純にこの記事の内容に従えばいいというわけではない。チームによって状況はさまざまなので、まずはチームと選手がどんな状況にあるのかを把握することが大切だ。認知層を増やしたいのか、あるいは気軽なファン層を増やしたいのか、きちんと分析することで適切な戦略と施策を計画することができる。
もちろん、なんとなくツイートをしたり生放送をしたり、動画を投稿したりすることでもファンは増えていく。しかし、ファン作りにおいてコミュニケーションの齟齬は致命的なので、ファンになってくれるかもしれない人を取り逃がさないよう、ターゲットは明確にしておくのが得策だ。誰にどんなコミュニケーションをするか——この考え方はいろんな施策に応用できるだろう。
コミュニケーションにおいて絶対にやってはいけないのは、事務的・高圧的・喧嘩腰・横柄なの発信である。何事も丁寧に、謙虚に、誠実に。ファンは金づるではなくパートナーだ。ファンと一緒にコミュニティを作っていくという意識、失敗すら共有する共犯関係を作っていくという意識を持てば、多くの人が虜になってくれるはずだ。
今回言及していない、プロチーム経営で重要なことはまだまだたくさんある。とはいえ、こうしたノウハウを少しずつでも蓄積し共有することで、esports業界の発展に寄与貢献できれば幸いである。
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