2024.1.11『楽園のカンヴァス』原田マハ
アンリ・ルソーの名画「夢」をめぐって繰り広げられる美術ミステリー作品。
現代から過去、また作中の物語へとシーンが移り変わってゆく度に少しずつ謎が紐解かれてゆくのが非常に心地よかった。
絵画には明るくない私が読んでも、「夢」という作品が持つ魅力に間接的に触れられたような感覚になり、「夢」に酷似した「夢をみた」の秘密に迫ってゆくその過程に虜になっていた。
芸術を取り巻くのは、権力や財産、真贋や既得権など作品以外の部分が多いように描かれている。その中でも、「情熱」によって人は突き動かされることを再認識することができた。ルソーに魅せられて研究を続けてきた織絵と、同様に研修者かつMoMAのアシスタントキュレーターであるティム・ブラウンを現代軸と過去軸それぞれの主人公に添え、他に登場するコレクターのバイラー、また彼が持つ不思議な物語の中のルソー、ヤドヴィガ、ジョセフ、ピカソなど。
いずれの登場人物も、芸術への飽くなき探究心と情熱が密度高く描かれていたように感じる。
また、芸術に明るくなかったヤドヴィガが開眼するシーンや、ルソーが最後の絵を描きだすシーン、そして全ての謎が明らかになるラストシーン。
いずれも巧妙に張り巡らされていた伏線を、綺麗に片付けていくその様子には思わず唸ってしまうほどだった。
印象深いのは、織絵の娘である真絵が最後に放った
「なんか……生きてる、って感じ」の一言。
これこそが、物語「夢をみた」の中でしきりに出てきた「永遠に生きる」ということではないかと強く思った。人の生命は死をもって終わるわけではなく、生きた証がより大きな情熱の上に塗り重ねられることで、深く遺ってゆくのだと、そんな風に思う。
そこには権力や財産、既得権などは最早必要なく、もっと純粋なものだけしか必要ない。ただひたすらに真っ直ぐなものごとが、人の心を動かし、人々を惹きつけ、そして大きな流れとなって時代を象る。そういった根源的なことを教えてくれたようだった。
今回は数日間かけて読み進めたが、その中で気づいたことは、途切れ途切れになっているわりにひとたび読み始めると、途端に作品に没入できるということ。それは本作だからなのか、別作品でも同様なのかは今後明らかになることだとは思うが、まとめて読まないことで作品の余白を思考できることも楽しさの一つだと感じた。