整枝剪定を早く終えるためにはすべきこととは(5)~剪定の型を覚えよう②「側枝管理3つのポイント」~

前回から「思考の型」という概念的な話から、実践的な「技術の型」についての紹介をしています。
型というパターンが出来ることで、作業時に都度都度考えて手を止める時間のロスを減らすことができます。
前回は枝の先端を高くする「頂芽優勢」。
今回は頂芽優勢をより生かすための側枝管理についてです。

【大前提】主枝を負かす側枝はつくらない

主枝を伸ばして育てていく過程では、主枝の生育を妨げる側枝は置いてはいけません。
養水分の主たる流れが、根→主枝先端から、根→側枝先端の方向に切り替わってしまうからです。
川の本流が元々支流だったほうに切り替わってしまうイメージが的確かと思います。
すると分岐した位置から先の主枝(本流)は痩せ細り、代わりに側枝(支流)のほうは太く長く育ってしまいます。

基部に近い枝のほうが元気になりがちなのは、植物生理上仕方のない現象ではあります。
養分水を引き上げる根からの距離が近いためです。

前回は、だからこそ先端を立ち上げて頂芽優勢を効かせる必要がある、と解説しました。
上記のような主枝を負かす枝があらわれないようにする管理が大切です。
側枝は葉を着けて光合成をおこない身体を作ってくれる大切な器官でもあります。
要は本流を負かさない支流に留めておけばよいのです。
その方法について以下で解説いたします。

1.切り返しの強弱をつける

剪定の基本は、新梢を伸ばしたい枝ほど太め・短めの位置で切ります。
太ければ養水分の流れる幅が広くなりますし、短く切り落とすことでその枝の芽の数が減るため、残った芽に養分が集中して長大な新梢が発生します。

繰り返しますが、枝は何も手を加えないと基部付近にあるものほど太く・長く育ちがちです。
主枝先端を強くさせるためには、競合となる枝の生育は抑えなければいけませんから、基部付近の枝は細め・長めに切ります。
なので発育枝の先端を少しだけ切る格好になります。
枝を長く残すということは残る芽の数がたくさんあるということですから、養分は分散され比較的短く細い新梢が発生します。
いわゆる「暴れる」という状態の、極端に太く長い側枝になるのを抑えられ、主枝先端方面に養分が流れやすくなります。

反対に主枝先端方面の側枝は伸ばしたいので太め・短めで切ります。
加えて頂芽優勢を意識して先端を高くしましょう。

もちろん一番伸ばしたいのは主枝先端ですから、それよりも高くするのはご法度です。

よく教科書的な資料や書籍には「予備枝は棚上30cmの高さで切り返す」とありますが、どこもかしこも30cmで切るのは私はおすすめしません。
一律に切ってしまうと、当然基部方面のほうが強くなってしまうからです。
また発育枝はそれぞれ太さも長さも発生角度も異なります。

・主枝先端方面の発育枝はよく伸びるように棚面30cm以上に高く誘引したり、太め・短めに切り返す
・主枝基部方面の発育枝は生育を抑えるため棚面10cm前後に低く誘引したり、細め・長めに切り返す
・主枝中間部は間を取って中庸に


どこもかしこも同様に切っていては、いつまで経っても骨格枝を伸ばすことができません。
発育枝は主枝全体で見たときの発生位置や、太さ・長さを見て、それぞれ管理方法を変えましょう。

2.車枝を作らない(側枝間隔は40cm)

頂芽優勢も側枝の強弱も気をつけているのに、主枝先端があまり伸びていない場合は、側枝を多く置きすぎている可能性があります。

そういう木は大体側枝間隔が狭いです。
側枝と側枝の間隔は40cm前後に統一しましょう。
40cmとは展葉したときに、お互いの側枝の葉と葉が重なり合わない距離です。日光がまんべんなく当たって、風通しがよい間隔です。
そして主枝における先端までの養水分の流れを遮らない幅でもあります。

それぞれの支流が細くても、近い位置に集中して存在していればちょっと意味が変わってきますよね。
たとえば20cmの間隔に左右集中して側枝が発生している場所はないでしょうか。
こういう状態を「車枝」といい、先端部への養水分の流れを遮断してしまうネガティブな型です。
車枝ができてしまうと、その部位から先の主枝が高確率で先細りします。

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車枝の名前の由来は、主枝の一部から放射状に側枝が伸び出し、車輪のような形状をしているためです。

型にはダメな型もあります。
車枝は典型的なダメな型。
良い型は積極的に取り入れていいですが、ダメな型は逆に絶対に真似しないように心がけましょう。

車枝にならないようにするためには、機械的に40cm前後に側枝を配置するよう心がけることです。

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例えば20cm間隔くらいで良さそうな(花芽が沢山入った)側枝が3連続して取れても一本は取り除きます。
「勿体ないじゃないか」と思われるかもしれませんが、3本の側枝とも枝の日当たりが悪くなったり、主枝の生育を妨げるほうがよほど勿体ないです。
むしろ切った位置から発生する新梢を生かしたほうが、枝の更新サイクルが出来てプラスと考えられないでしょうか。
果樹は永年生作物です。
1~2年先の成果だけを見ず、中長期的な視点で樹の管理をおこなうことをおすすめします。

3.主枝を負かす枝は切り捨てる

・主枝と近い太さ(3/4程度の径)の側枝や発育枝
・発生位置から先の主枝を明らかに先細らせてしまっている側枝や発育枝
については問答無用で切り落としてしまってください。

そのような枝を切って、枝間隔が空きすぎて棚面がガランとしてしまっても、見つけ次第切ってしまうべきです。
若木のうちなら切り口から高確率で潜芽が発生しますし、逆に主枝の生育を邪魔する枝がなくなることで、先端方面への養水分の流れが活発化して新たな芽が他の位置からも吹いてくれます。

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↑のように意外に出てくるものです。
先ずは主枝を伸ばすことが第一、側枝の充実は二の次です。

どうしても使わざるを得ない場合、当該の枝を弱める工夫をしてください。
「捻枝」、「割枝」、「楔」、「環状剥皮」など傷を入れたり、「返し枝」で養水分の流れと逆方向に誘引・棚付けをします。
これらのテクニックについてはまた機会がありましたら解説いたします。
ただ初心者のうちは妙なことはせず、主枝の生長を邪魔する側枝は切ってしまったほうがよいと個人的には思います。
基礎が出来ていないのに応用を覚えてしまうのは危険ですから。

要はとにかく主枝先端に養水分が流れるように障害物を極力なくす。
若木のうちはこれに尽きると思います。

果実が旺盛に成り、発育枝も茂る成木のステージでは、また管理法にプラスαの要素がありますが、先ずは今回の3つ型が基本になると思います。
何か心当たりのある方はぜひ導入してみてください。




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